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The Weird and Wonderful Marmozets / Marmozets [Rock]

ここに記事をUPするのは久しぶりだ。全く音楽を聴いていないわけではなく、毎月のように新しい音楽との出会いもあったりするのだが、諸々の自己解決出来ない事情が俺のまとまった文章を書く気力を削ぎ落としてしまうのだよなぁ。

今日、久しぶりに何か書く気になったものの、遡って自らの記事を見ると、ここのところリスペクトしているミュージシャンが亡くなった時くらいしか筆(指)が動いていないことに気がついた。
「さすがにこれはマズいだろ」と、言うことで、現在進行形で頑張っているバンドについてしたためてみようと思う。とは言っても、もう4年も前の作品なのだが・・・
 
  The Weird and Wonderful Marmozets / Marmozets
The Weird And Wonderful Marmozets.jpg
2013年にデビューしたイギリスのバンド。2007年に結成した時点で平均年齢が18歳!実際にRoadrunner(!)の目に止まり、このアルバムでメジャーデビューした時は平均年齢は23歳になっている筈だが、それでも十分若い。って、メディア向けに公開されているメンバーの年齢なんぞ信用するに足りないが(経験あり)。

さらにこのバンド、ボーカル(女性)、ギター、ドラムが兄弟、リードギターとベースが兄弟。つまり、たった2組の兄弟で編成されている。まぁ、White Stripesの例なんかもあるし、メディア向けに公開されたプロフィールを鵜呑みにするのもどうかと思うが(またかよ)ここまで極端に偏ったメンバー構成とアナウンスするとなかなかメンバーチェンジも出来なかろう。が、「もしかしたらこれは本当なのではないか?」と思ってしまう程、メンバーの息がぴったりなのだ。

音の方はと言うと・・・

シングルコイル搭載のギターを無理やり歪ませた、ビギャビギャと耳に突き刺さる音。アルバムを通して流麗なギターソロは一切ない。ボーカルは曲によっては部分的に歌い上げる姿勢を見せるが、強靭なバンドサウンドに対抗するかのように必要があれば女を捨てて(失礼)叫ぶ。要所で変拍子をバシバシと決めまくるタイトなリズム隊、これにメンバーが一丸となって複雑なクランクをスピードを落とすことなく走り抜ける。必要以上に複雑なアンサンブルから一つ間違うとMath Rockにカテゴライズされそうだが、若干のメロディアスさを残したPunk Spirits溢れる硬質な音塊が絶え間なく放出される。

これは爽快だ!

 







なにせこの通りである。YouTube上にスタジオライブの様子なんかもUPされているので観てみることを勧めるが、演奏に取り組む姿勢はとにかく真面目で、なげやりな局面は一切無い。アレンジ面に関して言えば未成熟な面も散見され、もうちょっと「いい感じ」に仕上げられたのではないか、とも思うが、俺みたいな70年代ロック親父が考える「成熟」を果たした時、このバンドの持つ勢い、魅力は半減してしまうのだと思う。

現時点で持ち合わせているアイデアをこのメンバーで出すべき音に最適化させ、アンサンブルを作り込み、そこから逸脱することなく全身全霊で演奏に取り組む。このアレンジではミスは許されないし、誤魔化すことも出来ないだろう。誰かが間違ったり手を抜いたりしたらその時点で曲は崩壊する。異常なまでの緊張感。その結果発せられる音は圧倒的にパンキッシュでスリリング。勿論、決して耳にやさしい音楽では無い。拒否反応を示すものも多いだろう。だが、この瑞々しい感性が奏でる音は規定の枠に収ることを潔しとしない。素晴らしいオリジナリティ。乱暴でありながら緻密で美しく、磨かなくとも原石の状態で素晴らしい光を放っている。個人的にはボーカルが必要以上に女であることを武器にしていないのがツボだったりする。

 
近々2ndアルバムが発表されるようだ。女性をフロントに据えたバンドとしてはかなり長い4年近いブランク。どのような音になっているのだろう?この作品が発表された時点でバンドが成長を止めていたとは思えないので、何らかのアプローチの変化が出てくるのではあるまいか、と、内心期待しつつも心配である。宝石の原石は研磨されれば当然美しく整うが、小さくなってしまうのもこれまた事実。中途半端なプロデューサーをあてがわれていなければいいのだが・・・
 


The Weird & Wonderful Marmozet

The Weird & Wonderful Marmozet

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Roadrunner Records
  • 発売日: 2015/03/10
  • メディア: CD


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★ (Blackstar) / David Bowie [Rock]

David Bowieが亡くなってしまった。悲しい。ただ悲しいだけじゃない。何か、俺を構成している重要なピースが抜け落ちてしまったかのような喪失感を感じている。


2013年に9年間の沈黙を破り、The Next Dayが突如として発表された時は仰天した。と、同時に、「これが最後だろうな」と思った。が、予想は外れ、つい先日の2016年1月8日、Bowieの誕生日に合わせて新作が発表された。事前情報を入手していなかった俺はAmazonで偶然見つけ、慌てふためきながらも発注、翌日届いた新作を聴き、あれこれ思いを巡らせているといきなりの訃報。悪い冗談はやめてくれ、最初は本気でそう思ったよ。しかし、時間を追う毎に、様々なメディアがBowieの死を報じるようになり、容赦なく信じざるを得なくなってしまった。勿論、事実として受け入れたからと言って、重要なピースが抜け落ちてばらばらになってしまった俺の心の整理が出来るわけではないが。

Bowieの功績について、俺がここで青臭く語るまでもなかろう。ただ、改めて確認しておきたいのは、Bowieは決してLet's Danceで当てた一発屋などではない、ということだ。大衆娯楽を提供出来るエンターティナーであったと同時に、自分のイメージが固定化されることを拒絶し、時代の流れに迎合することなく変容を繰り返す真の意味でのアーティストだった。

そんな偉人の遺作を旅だって間もないこの時期に俺なんぞがどうこう言う事など畏れ多いのだが、気持ちの整理をする為にも、あえて取り上げさせて頂く。


★ (Blackstar) / David Bowie

david bowie  blackstar.jpg


せっかくなので、全曲の印象を書き綴ってみたいと思う。

この作品、最初に聴いた時は正直とまどった。特にアルバム一曲目のBlackstarの冒頭は今まで聴いたことのない曲調で、俺の経験値の範囲内では、他の誰にも似たようなアプローチを見いだす事が出来ない。あえて言うなら、Avant JazzとTecnoの融合を実験し、ボーカルを乗せてみた、という感じだろうか。それにしてもよくこの演奏にボーカルを乗せられたものだ。いや、ボーカルを乗せる曲によくぞこんなアプローチを選んだものだ。

2曲目の'Tis A Pity She Was A Whoreは小気味のいいリズムワークに乗せて、いかにもBowieらしい節回しの歌唱が聞かれるが、間奏部分でのサキソフォンが過剰、かつ無政府で混沌としており、うまく腑に落ちてこないのが残念。

続くLazarusは比較的抑制の効いたサキソフォンのアレンジと時折聞かれる単調で破滅的な音響のギターの簡潔なプレイが無力感を醸し出す佳曲。ここでアルバムはささやかながら一回目のピークを迎える。

アルバムも中盤に差し掛かり繰り出されるSueは、これまたJazzとTecnoの融合を試みたようなスピード感溢れる曲。演奏は比較的単調だがギターとベースがユニゾンでスリリングなフレーズを禁欲的に繰り出してくる。また、不穏な音も頻出。中盤以降、Bowieがリズムの呪縛から自らを解き放ち、自由に振る舞う様には驚かされる。

続くGirl Loves Meはデカダンスを感じさせる簡潔にして単調な演奏が延々と続くが、予想もしないところで展開したりする意表をつく曲。聞き手を煙に巻くような不穏な音響も聞かれる。

さて、アルバムも余すところ2曲、ここでようやく一聴してBowieと解る曲調のDollar Daysで安心感を得られる。サイケな雰囲気を醸し出す演奏、メランコリックな曲調はなぜかDiamond Dogsに収録されていても不思議ではない雰囲気を持っている。

そしてシームレスにつながっていく最終曲、I Can't Give Everything Awayのもたらす上昇感は素晴らしい。相変わらずサックスは過剰気味だが、曲の終盤、Bowieが繰り返し歌い上げるI Can't Give Everythingという意味深な言葉にRobert Frippのフレージングに酷似したギターが被り、しばらくの後、曲はいきなり転調を迎え、長く、細く音を延ばしながら消え去っていく。


アルバムを通して聞いてみた感想。音像が曖昧で統制がとれていないような印象の曲も散見され、アレンジの作り込みが足りないような気もするし、サキソフォーン奏者の抑えがきいていない局面も聞き取れる。アプローチの方法にも統一感を欠く印象は否めない。果たしてこれでBowieの目指した結果が出ているのかどうか若干の疑問もあったが、何回か聴いているうちにある言葉を思い出した。

 
『美は乱調にあり』


前述の通り、アルバムの一部分のみを取り出すと巧く収まっていないと思わせる局面も皆無ではない。が、作品全体を通して聴いてみた印象は、やはりDavid Bowie以外の何者でもなく、そしてまた、このようなアプローチの方法はDavid Bowie以外のアーティストには不可能なのではないだろうか、と思わせる。雑多で未整理な部分をも取り込んで自分のものとして完成させてしまう。美は乱調にあり、これほどこの作品にぴったりの言葉は無いのではないだろうか?


実は、このジャケットを手に取った瞬間、「あ、Bowieはこれで引退するつもりだな」と、確信した。大きな黒い星の下には、解体された星のシンボルの一部、即ちStardustが並べられていたからだ。(後日記:と、思っていたのであるが、どうやらBOWIEという文字列を星型の構成要素を使って表記したものらしい)しかし、引退が新作発表後2日目の死去という形で行われるとは・・・
Bowieはどのような覚悟と思いを持ってこの作品作りに臨んだのだろうか?少なくとも、この作品を作成中にBowieが自分の死を見つめていたことは確実だ。その思いはLazarusの歌詞にも顕著に現れている。


この作品を傑作と言えるかどうか、現在の俺は冷静な判断が出来ない。が、暫くは思い入れを持ちながら聴き続けることになりそうだ。


常に先駆者であり続けた貴方の死によって空いた空白は他の何によっても補填する事は出来ない。今はどんな言葉も無力だ。貴方は変容し、創造し、人々を触発し続け、ついには見えない星となった。


ありがとう、David Bowie、決して忘れない。
 
 


★

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2016/01/08
  • メディア: CD



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7(or 8) / KINSKI [Rock]

先日、何か面白そうな音は無いか、と、ネット上を徘徊していると、ちょっと気にかけているバンドが新作を発表していた。が、あまりのアートワークのダサさに瞬時に凍り付いてしまった。
「もしかしたらこれは同名の別バンドではないのか?」との疑念を払拭出来ず、一曲目を試聴。と、いきなりもの凄い爆裂ギターが襲って来た。「間違いない。あのバンドだ。それにしてもこの音創りの変り様は何事だ?」と、戸惑いながらも購入。


7(or 8) / KINSKI

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う〜ん、何度見ても否定したくなるジャケットだ・・・


KINSKIは1990年代後半から活動を続けているシアトルのバンド。俺自身は3枚目(多分)のAris Above Your Stationをジャケ買いし、MOGWAIにも通じるような思慮深い音の佇まい、時折見せるパンキッシュな表現の凶暴さを気に入り、その後、作品が発表されているのを見かけると購入するようにしているのだが・・・

 
実はこのバンド、アルバムによって作風に極端なバラつきがある。前述のようにPost Rockな雰囲気を漂わせた味わい深い作品を発表したかと思うと、アルバム通してまとまったメロディーはおろか、リズムらしきものがない不可解な音響を延々と連ねた「ハテナ?」な作品を投げつけて来やがったりする。不幸にも俺はそういった、聴き手に極度の我慢を強いる作品を2枚ほど所有している。いや、懸案の2作品はダウンロード購入したので、「2枚」と言う表現は厳密に言えば正しくないのだが、だったら尚更、試聴した時になんで購入に踏み切ったのか、当時の自分に突っ込みを入れたくなるぜ。

さて、肝心の今作だが、全7曲中2曲のみ、昔のPost Rock時代の名残を感じさせる奥行きのある演奏が披露されているが、それ以外は爆音ギターが暴れまくるガレージ・ロック風の曲が目白押し。ボーカルが聞かれるのは2曲のみ。まぁ、もともとKINSKIはインストゥルメンタル中心のバンドだったので不思議ではないのだが、以前は音響のバリエーションを工夫して曲を組み立てていた(時期もあった)にもかかわらず、今回は一本調子な超破壊的音響で強行突破だ。



 
それにしてもこの過剰なまでのギターの歪み具合、そして稚拙ともとられかねないソロは何事だ?15年以上のキャリア、10作以上の作品を送り出して来たバンドとはとても思えない。が、小手先の技術を封印し、迸る感情をセオリーを無視してギターにぶつけたそのプレイは脳幹にダイレクトに訴えかけてくる。これを、「ソロが下手で聞くに堪えない」と思う者は、音が根源的に持つ力というものを考え直す必要がある、と、俺は思う。


実は、俺の知る限り、KINSKIのガレージ寄りの音創りは、少なくとも前作、Cosy Momentから顕著になっていた。まぁ、元々彼らはグランジの聖地、シアトルのバンドである訳だからして、こういうタイプの音に散々さらされて来たはずであって、見方を変えれば、バンド発足当時にブームを迎えつつあった音響派のPost Rockを目指してはみたものの、長い時間をかけて試行錯誤した結果、自分たちのルーツに回帰した、と考えられなくもない。


総じてこのアルバム、曲の出来・不出来に若干のバラつきを感じるものの、まぁ、これは好みの問題でもあろう。個人的には1曲目、Detroit Trickle Downが醸し出す、Evil Heat時代のPrimal ScreamがKevinの発案でMy Bloody Valentine用に創った曲を全力で演奏したような雰囲気がツボ。6分14秒を一切スピードを落とす事無く駆け抜ける入魂のインスト爆音ロック。何度聴いても鳥肌がたつ。

前述の通りなので、豊かなリフや流麗なギター・ソロを絶対的な価値基準にする前頭葉に赤錆が浮き出たメタル野郎には絶対に受け入れられないだろう。が、グランジ/オルタナの潮流に身を投じ、「技術だけが全てではない」と言う事をリアル体験した者は、爆笑しながらも、「そうきたか〜!」と、膝を叩き、喜ぶことだろう。


と、言う訳で、限定的に強力推奨!



7 (or 8)

7 (or 8)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Kill Rock Stars
  • 発売日: 2015/07/15
  • メディア: CD



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Royal Blood [Rock]

おっとっと、気がつかないうちに英国から重量級のバンドがデビューしていた。それも一年近く前とは、ずいぶんとうっかりしちゃったもんだぜ。
 

Royal Blood

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バチ当りな名前のこのバンドはドラマーとベーシスト、ボーカルはベーシストが兼任。つまり、メンバーがたった二人なのである。レコーディングやライブに際してもサポートメンバーは入れていないようだ。

では、どうやって音を創っているかと言うと、ビデオを見た限りでは、重く安定感のあるドラムがアンサンブルの根底を支え、ディストーション、オクターバーを中心にエフェクターを多用したベースがフレージングを工夫した上、エフェクターのON/OFFを頻繁に行い、ベーシストとギタリストの役をこなしている。指先のみならず、足下も相当忙しいことになっている筈だ。さらに加えてボーカルも担当しなければならないのだが、そのむさ苦しい(失礼)外見とは裏腹に、のべつまくなしにダミ声でがなるような無作法な事はせず、なかなかエモーショナルで『聴かせる』歌唱を心がけている。このあたりは非常に好印象。



音響設計は、同様の編成で(ボーカル担当はドラマーだったが)インパクトのある音をぶちまけ、「これは化けるか?」と期待させたものの、うまく波に乗れなかったDeath From Above 1979を思い出させるが、彼らと比べると曲が格段にキャッチーで、飽きる事なくアルバム一枚を聴き終わってしまう。まぁ、全ての曲が2〜4分台と冗長でないことも有効に作用しているとは思う。曲調は、The White StripesMuse等を想起させるものが多く、全ての曲にそれなりの魅力がある。残念ながら、編成に起因する音響的特徴(限界、とも言い換える事も可能だが)のせいでどの曲も似たような印象になってしまうのは致し方無いところだろう。が、ところどころ70年代ハードロックの匂いを漂わせているところは個人的にツボ。ま、これもThe White StripesやMuseにみられる特徴と同じなのだが、なによりもこのドカスカパカスカブンブンギャンギャンとうねる超重量感、非常に魅力的だ。

メジャーデビュー前から相当の人気があったようで、このデビューアルバムのチャートアクションも良い結果が出ており、特に本国英国では1位を獲得しているようだ。さて、2枚目以降はどのように展開していくのだろう?と、いうより、これ以上の事が彼らに可能なのだろうか?ゲストミュージシャンなんか安易に起用したら「たった二人でこれだけ分厚い音を出している」という、彼らの存在価値は下がってしまうし・・・

 
ま、あまり面倒な事は考えず、我々リスナーは今の輝きを享受すればいいのだと思う。とりあえず、一聴の価値はある。



Royal Blood

Royal Blood

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Warner Bros / Wea
  • 発売日: 2014/08/26
  • メディア: CD


 
 
 

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Sings Christmas Carols / Mark Kozelek [Rock]

世の中一斉にクリスマス。猫も杓子もクリスマス。犬も歩けばサンタに当たるってくらいクリスマスなこの時期に合わせたかのように、いや、絶対に合わせて(笑)、素晴らしい作品集が発表された。


Sings Christmas Carols / Mark Kozelek

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いままで、このブログで何回か取り上げてきたSlow/Sad Coreの重鎮、Mark Kozelekの最新作。

Mark Kolerekは10年くらい前、White Christmasなる作品を発表している。そのネーミングからクリスマスソング集であることは容易に察しはつく。彼の淡々とした歌唱法で歌われるクリスマスソングとはどんなものか非常に興味があったのだが、どうやら完全限定プレスだったようで、たまに出ていてもコレクターズアイテムとしての法外な値段がつけられており、俺自身も未聴のままだ。が、今回の作品はまっとうな値段で市場に出回っている。勿論、Red House Painters時代からMark Kozelekのファンである俺にためらう理由なぞない。速攻で購入。

このアルバム、その名の通り、クリスマスの時期に歌われる歌の数々、いわゆるクリスマス・キャロルのみで構成されており、当然のごとくオリジナル曲は皆無である。

実はこの人、既存の曲のカバーを好んで行う。が、オリジナルのアレンジはおろか、メロディーさえも自分流に作り替えてしまう事も多い。中にはAC/DCの曲のみで構成されているアコースティック・アルバムもあるが、歌詞をつぶさに聴かないとどれもAC/DCの曲だなんてわからないほどだ。この手法には「遊び心」という言葉だけではで片付けることの出来ない一種のアイロニーすら感じられるが、結果として出た音はオリジナルとは全く異なった魅力があり、一筋縄ではいかないくせ者なのだ。

そんな訳だから、この作品ももしかしたら基本メロディーを徹底的に破壊したMark Kozelek流のクリスマス・ソングばかりが並んでいるのでは?と、ちらと思ったが、最近はコンサート会場に好んで教会を選んでいるらしいMark Kozelek、さすがにそんな「ばちあたり」な真似はしていなかった。

内容はと言えば、ガット・ギターから紡ぎだされる柔らかな音をバックに、大きな盛り上がりを見せずに淡々と歌われていく珠玉の曲の数々、全14曲。曲によってはMark Kozelek自身による(多分)多重録音による声の重層化が行われており、中にはこの手法によるアカペラのみの曲もある。演奏面においては部分的に装飾的なフレーズにアコースティック楽器を配置しているが、それらはけれん味なく演奏されており、ただただ静かに時間が流れていく。最終曲のみジャジーなピアノの伴奏により独唱が行われているが、これがアルバムの最後を飾るのに実にふさわしい内容。アルバム全体を俯瞰的に見れば、ところどころ節回しにロック臭さの名残を感じるものの、威圧的な表現、音響は皆無。ほとんどの曲に施された深い残響と相まって、どこまでも静謐な音世界。そして感じるかすかなぬくもり。中にはあまり耳なじみの無い曲も収録されているし、ところどころ歌詞を変えているような気もするが(確信は無い)、雰囲気は文句のつけようが無い。実に魅力的。

これは極上のクリスマス・アルバムだ。宗教的な匂いのする賛美歌のみではなく、ポピュラー音楽をも程よく織り交ぜ、神々しさと親しみやすさを同居させながらも与える印象に極端な差は感じさせない。押し付けがましいところもなく、何度でもリピートして聴ける。

イベントを盛り上げる狂騒的なクリスマス・ソングは遠慮したいロックな大人の為のクリスマス・アルバムとして、強力に推奨する。クリスマスシーズンの今、これを聴かずして何を聴くというのか?


彼が主催するレーベルのオフィシャルサイトで、アカペラによる曲を一曲だけ試聴できるので、URLを張っておく。
http://www.caldoverderecords.com/christmas/index1.html


メリー・クリスマス!


Sings Christmas Carols

Sings Christmas Carols

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Caldo Verde
  • 発売日: 2014/11/04
  • メディア: CD



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