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★ (Blackstar) / David Bowie [Rock]

David Bowieが亡くなってしまった。悲しい。ただ悲しいだけじゃない。何か、俺を構成している重要なピースが抜け落ちてしまったかのような喪失感を感じている。


2013年に9年間の沈黙を破り、The Next Dayが突如として発表された時は仰天した。と、同時に、「これが最後だろうな」と思った。が、予想は外れ、つい先日の2016年1月8日、Bowieの誕生日に合わせて新作が発表された。事前情報を入手していなかった俺はAmazonで偶然見つけ、慌てふためきながらも発注、翌日届いた新作を聴き、あれこれ思いを巡らせているといきなりの訃報。悪い冗談はやめてくれ、最初は本気でそう思ったよ。しかし、時間を追う毎に、様々なメディアがBowieの死を報じるようになり、容赦なく信じざるを得なくなってしまった。勿論、事実として受け入れたからと言って、重要なピースが抜け落ちてばらばらになってしまった俺の心の整理が出来るわけではないが。

Bowieの功績について、俺がここで青臭く語るまでもなかろう。ただ、改めて確認しておきたいのは、Bowieは決してLet's Danceで当てた一発屋などではない、ということだ。大衆娯楽を提供出来るエンターティナーであったと同時に、自分のイメージが固定化されることを拒絶し、時代の流れに迎合することなく変容を繰り返す真の意味でのアーティストだった。

そんな偉人の遺作を旅だって間もないこの時期に俺なんぞがどうこう言う事など畏れ多いのだが、気持ちの整理をする為にも、あえて取り上げさせて頂く。


★ (Blackstar) / David Bowie

david bowie  blackstar.jpg


せっかくなので、全曲の印象を書き綴ってみたいと思う。

この作品、最初に聴いた時は正直とまどった。特にアルバム一曲目のBlackstarの冒頭は今まで聴いたことのない曲調で、俺の経験値の範囲内では、他の誰にも似たようなアプローチを見いだす事が出来ない。あえて言うなら、Avant JazzとTecnoの融合を実験し、ボーカルを乗せてみた、という感じだろうか。それにしてもよくこの演奏にボーカルを乗せられたものだ。いや、ボーカルを乗せる曲によくぞこんなアプローチを選んだものだ。

2曲目の'Tis A Pity She Was A Whoreは小気味のいいリズムワークに乗せて、いかにもBowieらしい節回しの歌唱が聞かれるが、間奏部分でのサキソフォンが過剰、かつ無政府で混沌としており、うまく腑に落ちてこないのが残念。

続くLazarusは比較的抑制の効いたサキソフォンのアレンジと時折聞かれる単調で破滅的な音響のギターの簡潔なプレイが無力感を醸し出す佳曲。ここでアルバムはささやかながら一回目のピークを迎える。

アルバムも中盤に差し掛かり繰り出されるSueは、これまたJazzとTecnoの融合を試みたようなスピード感溢れる曲。演奏は比較的単調だがギターとベースがユニゾンでスリリングなフレーズを禁欲的に繰り出してくる。また、不穏な音も頻出。中盤以降、Bowieがリズムの呪縛から自らを解き放ち、自由に振る舞う様には驚かされる。

続くGirl Loves Meはデカダンスを感じさせる簡潔にして単調な演奏が延々と続くが、予想もしないところで展開したりする意表をつく曲。聞き手を煙に巻くような不穏な音響も聞かれる。

さて、アルバムも余すところ2曲、ここでようやく一聴してBowieと解る曲調のDollar Daysで安心感を得られる。サイケな雰囲気を醸し出す演奏、メランコリックな曲調はなぜかDiamond Dogsに収録されていても不思議ではない雰囲気を持っている。

そしてシームレスにつながっていく最終曲、I Can't Give Everything Awayのもたらす上昇感は素晴らしい。相変わらずサックスは過剰気味だが、曲の終盤、Bowieが繰り返し歌い上げるI Can't Give Everythingという意味深な言葉にRobert Frippのフレージングに酷似したギターが被り、しばらくの後、曲はいきなり転調を迎え、長く、細く音を延ばしながら消え去っていく。


アルバムを通して聞いてみた感想。音像が曖昧で統制がとれていないような印象の曲も散見され、アレンジの作り込みが足りないような気もするし、サキソフォーン奏者の抑えがきいていない局面も聞き取れる。アプローチの方法にも統一感を欠く印象は否めない。果たしてこれでBowieの目指した結果が出ているのかどうか若干の疑問もあったが、何回か聴いているうちにある言葉を思い出した。

 
『美は乱調にあり』


前述の通り、アルバムの一部分のみを取り出すと巧く収まっていないと思わせる局面も皆無ではない。が、作品全体を通して聴いてみた印象は、やはりDavid Bowie以外の何者でもなく、そしてまた、このようなアプローチの方法はDavid Bowie以外のアーティストには不可能なのではないだろうか、と思わせる。雑多で未整理な部分をも取り込んで自分のものとして完成させてしまう。美は乱調にあり、これほどこの作品にぴったりの言葉は無いのではないだろうか?


実は、このジャケットを手に取った瞬間、「あ、Bowieはこれで引退するつもりだな」と、確信した。大きな黒い星の下には、解体された星のシンボルの一部、即ちStardustが並べられていたからだ。(後日記:と、思っていたのであるが、どうやらBOWIEという文字列を星型の構成要素を使って表記したものらしい)しかし、引退が新作発表後2日目の死去という形で行われるとは・・・
Bowieはどのような覚悟と思いを持ってこの作品作りに臨んだのだろうか?少なくとも、この作品を作成中にBowieが自分の死を見つめていたことは確実だ。その思いはLazarusの歌詞にも顕著に現れている。


この作品を傑作と言えるかどうか、現在の俺は冷静な判断が出来ない。が、暫くは思い入れを持ちながら聴き続けることになりそうだ。


常に先駆者であり続けた貴方の死によって空いた空白は他の何によっても補填する事は出来ない。今はどんな言葉も無力だ。貴方は変容し、創造し、人々を触発し続け、ついには見えない星となった。


ありがとう、David Bowie、決して忘れない。
 
 


★

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2016/01/08
  • メディア: CD



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コメント 2

mari_mari_setia

David Bowieをすごい人だなと思ったのは、Tin Machineを観てからです。十分売れてからこういうバンドをやっちゃう人は本物だな、と思いました。ドラッグの過剰摂取っぽい音だと思ってたら短期で活動休止になって、あ、やっぱり。と思ったものでした。でも、今でもこのバンドは好きです。先日、サヌールで行われたコンサートでバリ人のミュージシャンが僕の神様が本当に神様になっちゃった、と前置きして、スペースオデッセイとスターマンをアコギで歌いました。とても良かったです。
by mari_mari_setia (2016-02-22 18:39) 

lagu

mari_mari_setiaさん、コメントありがとうございます。
私は逆にTin Machine以降、Bowieを追いかけるのをやめてしまっていました。勿論、それ以降のアルバムもThe Buddha Of Suburbia以外は一通り聞きましたが、あまりピンとこなかったってのが正直なところです。が、前作から10年ぶりの2013年のThe Next Dayの出来が出色だったので「これで全力を出し切って引退ってことか」と、勝手に納得していたらBlackstarのリリース。そして発表二日後の突然の訃報。本当に驚きました。
最近はBowieを偲んで自宅でAladdin SaneやZiggy Stardustに収録されている曲を聴きながらギターを弾く事が多いです。この頃のBowieのオリジナル曲には駄作が全くないですね。特にMick Ronsonギターの音、フレージングが異常なまでに艶かしく、こりゃすげぇ、と、改めて感じ入っています。
by lagu (2016-02-23 16:20) 

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