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衝撃と絢爛のスーパーガムラン / ヤマサリ [ガムラン]

さて、Yamasariである。ガムランとしては個人的に最も思い入れが深い楽団である。

バリのガムランが民族音楽であることは明白であるが、その全てが伝統音楽というわけでは無いのは周知の事実。意欲のある楽団は既存の曲にも様々な創意工夫を凝らし、オリジナルの現代曲などもレパートリーに取り入れていたりすることも多い。が、過度に表現の広がりを求めるあまり、伝統的なテイストが薄れてしまうこともある。ま、何もこれはガムランに限ったことではないが。

勿論、ネイティブの人たちが自分達だけのためにやっている分には、部外者である外国人がそれを良いの悪いの言うことはお門違いだ。が、それらの作品が外国人に向けても発信されている場合、即ちその楽団が観光客向けに興行を行っていたり、録音された音楽作品を発表していたりする場合は、出た結果について好きか嫌いか意思表示をすることは自由であり、当然の権利である。そして俺自身は、現代曲であろうとも伝統的テイストが感じられる方が好きだ。

衝撃と絢爛のスーパーガムラン / ヤマサリ

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ヤマサリの第二作目。この作品はGong Kebyarの現代器楽曲のみで構成されている。にも関わらず、非常に伝統的な雰囲気が横溢している。

Yamasariの結成は1993年(だったと思う)。楽団の歴史は浅いが、音楽監督は、Gunung Sari、Tirta Sari等、プリアタンの名楽団の数々で長年に渡り辣腕を振るってきたCok Alit Hendrawan氏。プリアタンの音楽面の伝統を最前線で支えてきた彼は圧倒的な求心力を持つ、いわばカリスマである。楽団員もGunung Sari、Tirta Sariを中心にプリアタンの楽団で活躍してきた実力者が多い。言うなれば熟練の職人達が結成した楽団だ。あらゆる意味で、Yamasariには「華やか」というより「重厚」という言葉が良く似合う。

この作品に収録されている殆どの曲はYamasariが演奏することを前提にCok Alit Hendrawan氏自らが作曲・編曲し、本人も中心的役割で演奏に参加している。このことがたとえ現代曲であろうとYamasariの演奏が伝統的なテイストを色濃く感じさせる大きな要因になっていると思う。さらに洗練された技を持つ前述のようなキャリアの団員達が演奏しているのだからして、演奏内容に関しては悪い筈がない。確かな技術によって繰り出された各楽器の音が共鳴し、複雑な二次発生音が渦巻いた上に、轟き渡るゴングの咆哮が覆い被さり、尋常ではない音のうねりが作品全体を支配している。これは楽器を「鳴らしきる」ことを熟知しているからこそできる「技」だ。ただ楽器の操作、即ち演奏がうまいだけでは決してこのような音は生まれない。

アルバム最初を飾るSegara Muncharの交響曲調の怒涛(文字通り怒涛のごとく)のアンサンブルは緊張感に満ち、一瞬たりとも気が抜けない。続くEka Winangunでは後半部分の高速ガンサの紡ぎ出すコテカンの網目模様は鮮やかな切れ味。Ratna Gurunitaの冒頭部分で聴かれる呼応するスリンは郷愁を誘い(後半に登場する日本の童謡の旋律は、ま、ご愛嬌である)、楽団のテーマ曲とも言うべきYamasari 、そして続くGiri Kenakaの威厳に満ちた演奏は聴く者を圧倒する。アルバム最後を飾るUjan Masは「黄金の雨」どころか吹きすさぶ暴風雨のようにひとしきり暴れまわり、あっという間に去っていく。後に残るのは深いバリの闇を想起させる虫の声。鳥肌ものである。

最も注目したいのは、珠玉のLelambatanの数々、即ちEka Winangun、Giri Kenaka、そしてYamasariだ。これらの全てが10分超の大作で、Giri Kenakaに至っては17分近い。枯れた味わいのトロンポンの音色に導かれて始まる退廃的な演奏は、ところどころアクセントを盛り込みながらうねうねと続く。この音に身を任せていると次第に時間感覚が麻痺してくるのだが、演奏が盛り上がりを見せるにつれ、強烈なトランス感が生まれるのだ。これらは決して判りやすい曲ではないし、正直言えば万人向けとは言い難いが、その面白さにはまると病みつきになってしまう。

この作品での演奏は1998年1月にバリ島で行われた。この作品の録音にはデジタル機材が使用されているようだが、まるでアナログ録音のようなラウド感が出ている。通常、入力がオーバーロードすると、アナログ録音では許容できる範囲の歪みで収まってもデジタル録音においては聞くに耐えないノイズになるもので、どうしてもゲインを抑え気味にしがちなのだが、この作品の収録時には勇猛果敢に限界ギリギリまでフェーダーをあげたようである。ま、リミッターも使用しているであろうことは想像に難くないが、音が歪む一歩手前、ぎりぎりのところでようやく踏みとどまっており、一聴すると分離を犠牲にしているようにも聴こえるのだが、ステレオでボリュームを上げて聴けば、素晴らしく豊かな音声空間が広がることに気が付くはずだ。さらに虫の声等の自然環境音も効果的に作用しており、まさに目の前で楽団が演奏しているかのような臨場感だ。

これもまた、前回取り上げたSemara Ratihの「ガムラン変幻」同様、気軽に聴き流すべき作品ではない。と、言うより、聴き流すことは不可能。ひとたび聴き始めれば終了するまで金縛り状態になり、聴き終わればまず間違いなく虚脱感に襲われるはずだ。初めてこの作品を聴いたとき、「こんなおっそろしいことをやっていたのか…」と思ったことを思い出した。円熟の域に達した職人達が伝統的テイストにこだわりながらも更に過激に進化した傑作と言える。「Gong Kebyarってのはこうあるべきなんだ!」という、Cok Alit Hendrawan氏の怒声が聞こえてきそうだ。


衝撃と絢爛のスーパーガムラン

衝撃と絢爛のスーパーガムラン

  • アーティスト: ヤマサリ
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2000/08/02
  • メディア: CD


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コメント 5

ぱうだー

おぉ!このアルバムいいですよねぇ。
BS生中継のときも山城さんが絶賛してましたが、まさに神業!
アンドンステージで「Ujan Mas」が始まった時には感激で鳥肌立ちました。
Yamasariのフルメンバーだと何人くらいになるのですか?前回の公演でも18~9人スリンやルバブの方もいなかったけど・・・
一度フルメンバーでの演奏を生で聴きたい!いずれ体験したい夢であります。
by ぱうだー (2006-01-25 22:15) 

lagu

ぱうだーさん、どうもです。
ヤマサリはフル編成だと30人弱になりますね。少なくとも演奏を成立させるためには最低でも15人は必要です。その内訳は省きますが、これ以下になるとちゃんとしたガムランの体裁にはなりません。
by lagu (2006-01-25 22:54) 

アンジャリ

おはようございます!
以前の記事へのコメントで失礼いたします。

>この音に身を任せていると次第に時間感覚が麻痺してくる
>演奏が盛り上がりを見せるにつれ、強烈なトランス感が生まれる
まさに!! 
この音をはじめて聴いたときの「衝撃」は忘れられません!
はじめて味わう音、感覚、、 とても重厚で深くて繊細な、、、心臓がブァーっと広がる感じ。
何度聴いてもその衝撃はかわることなく、聴くたびに〝魂〟もってかれちゃいます(^^ゞ

私のブログ記事、駄文ですがTBさせていただきました。
by アンジャリ (2006-03-11 06:57) 

lagu

アンジャリさん、コメントありがとうございます。
ヤマサリのルランバタン、(特にエカ・ウィナングン)生で聴いたことありますか?凄いですよ。以前、「定期公演でもやろう!」と、提案したのですが、「曲が長すぎてお客さんが飽きてしまう」と、却下されてしまいました・・・ ^^;
by lagu (2006-03-11 18:05) 

アンジャリ

またまたお邪魔します。

>特にエカ・ウィナングン
!!! ナマ聴きしたことないのです~(涙) 
凄かったんですね? ああ、あれは是非是非ナマで聴いてみたいです。
次回渡バリの際にご連絡しますので 「飽きませんから~」 って伝えておいてくださると・・・m(__)m  
(あはは!ずーずーしいですね^^;)
by アンジャリ (2006-03-13 14:41) 

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