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FISH RISING / STEVE HILLAGE (カンタベリー系ジャズ・プログレ) [Progressive]

俺が中学~高校時代、ショップで流通している長尺音楽作品、即ちLPの値段は2000~2500円くらいだったと思う。今は媒体こそCDに変わったものの、値段はほぼ同じだ。では、現在も当時も音楽作品の価値がさほど変わっていないのか、と言われれば・・・とんでもない!貨幣価値を考えれば当時は現在と比べれば倍以上、いや、もしかしたら4倍近いかもしれない。
当然、貧乏学生だった俺たちはそんなに頻繁にLPを買えるわけでもなかった。そうなると、どうしても買って後悔しないだろうと予測される人気バンドの作品を選びがちになる。それは例えばPINK FLOYDであり、EL&Pであり、KING CRIMSONであり、DEEP PURPLEであり、LED ZEPPELINであり、URIAH HEEPであり、QUEENであり、ROLLING STONESであり、EDGAR WINTER GROUPであったりするわけだ。

そういった背景があり、俺達の選択肢から「通好み」で「とっつきにくい」とされるカンタベリー系ジャズ・プログレは漏れていった。また、サキソフォンやフルート等のカンタベリー系で使用される管楽器の音が、当時ブラバンをやっていた俺にとってはあまりにも馴染み深くて聞き飽きていたということもカンタベリー系から足が遠のいた要因の一つだったかもしれない。

発表当時、年上の従兄弟から借りたという友人から数回聴かされ、それっきりになっていが、つい先日、唐突に思い出し、「今聴いたらどんな印象を受けるだろう?」と購入。

FISH RISING / STEVE HILLAGE 発売当時の邦題は「魚の出てきた日」

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1975年発表、カンタベリー系ギタリストの代表格、STEVE HILLLAGEのファースト・ソロアルバム。

前述の通り、そんなこんながあってカンタベリー系の音ってのはあまり聴いていなかった。この作品を聴いたとき、「タイトルとは異なり、なんだか宇宙的広がりを感じる音だなぁ・・・」と思った記憶がある。部分的に水音の効果音が入り、なんとなく「コンセプト・アルバムか?」と思わせる小細工は施してあるものの、深読みしてはいけない。多分、タイトルなんぞ便宜上の物なのだろう。要は音楽家の表現欲の発露には何らかの口実が必要だった、ということだ。

当時はかなりアヴァンギャルドな印象を受けたが、今こうして改めて聴いてみると、若干変則的ながらもバンドのフォーマットで演奏されており、普通に聴くことが出来る真面目なロックという印象を受ける。正直言えば、覚えていてのは印象だけで、改めて聴いてみても「こんな曲だったっけ?」という感じだ。
バックの演奏はギタリストのソロ・アルバムということを意識して控えめ・・・なのかな?良くわからない。かなりミュージシャン・シップの高さは感じさせるが、若干テクニックに溺れている印象も受ける。とは言っても超絶プレイを繰り広げているわけではない。出力65パーセントといったところだろう。いわゆるカンタベリー系の音に特徴的な余裕をかました演奏。言い方は悪いがあまり抑揚は感じさせない平坦な音だ。唯一、主役であるギターはディレイを多用し、空間的な広がりを感じさせる音響設計をしている。
ところどころ「おっ?」とは思わせる局面があるものの、聴き手を威圧するような表現はない。しかし、これはジャズ系のミュージシャンに非常に特徴的な傾向だ。彼らが表現するのは「自分という技」であり、「聴き手のイメージを膨らませる空想の世界」では無い、ということを考えれば納得がいこうというものだ。このあたりが、シンフォニック系のプログレバンドと決定的に違うところだと思う。ある意味、基準軸が聴き手に無いのだから、作品に聴き手の感情が入る隙間がないのは当然だ。見方を変えれば、このへんがカンタベリー系の良さでもあり、弱点でもあったりするわけで、当時ガキだった俺達に理解が出来なかったのは当然かもしれない。

しかし、過去に思い入れを持って聴いていた音楽が色あせない(ように聴こえる)ことはままあることだが、この作品のように、特に思い入れも無く、曲自体も覚えていなかった作品を30年も時間を隔てた今聴いてみて「普通に気持ちよく聴ける」ってのは凄いことだと思う。これは時代背景によって左右されない普遍的な音楽家の表現欲があったからこそ成しえた技だ。今日、何回かリピートして聴いた。

ところでつい最近、カンタベリーという言葉のスペリングを知らないことに気が付き、インターネットに公開されている辞書で調べているうち、英国の一地方名という意味とは別に「往々にして譜面台の意味」という表記にぶち当たった。実はカンタベリー系ジャズ・プログレの特徴として、個人的に「大きな盛り上がりが無く同じような印象の音が延々と続くが実は曲展開は複雑怪奇で集中しないといつまで経っても覚えられない」という整理をしており、妙に納得してしまった。しかし、いわゆるカンタベリー系バンドは英国のカタベリー地方の出身であることから「カンタベリー系」というジャンル分けをされているらしい・・・偶然なのか?非常に興味があるところだ。


Fish Rising

Fish Rising

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMI/Virgin
  • 発売日: 2006/09/29
  • メディア: CD


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