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Emerson, Lake & Palmer (エマーソン、安らかに眠れ) [Progressive]

ロックの表現、文化に革命を起こした偉人、Keith Emersonが亡くなった。享年71歳。頭に銃創があることから、警察は自殺と見て捜査を進めているそうだ。4月には来日ツアーも予定されていたってのに、いったい何があったんだろう?
 

Keith Emersonは、ロックバンドの編成にはギター専任奏者がいる事が常識だった時代に、自ら結成したバンド、Emerson, Lake & Palmerによって、キーボード中心のトリオ編成というフォーマットを提示し、ロックファンを驚愕させた。また、ムーグ・シンセサイザーが楽器として途上段階から積極的に演奏に取り入れ、効果的かつ印象的なフレージングと音色を聴かせていた。開発者のムーグ博士自身も、「ムーグ・シンセサイザーのロックでの使い方はKeith Emersonが完成させた」と、公言しているほどのパイオニアだ。

音楽表現においては、Nice時代からクラシック音楽とロックとの融合を積極的、かつ継続的に試み、大きな成果をあげた。自分が実際に原曲を聴いて出典を確認しているだけでも、Emerson, Lake & Palmerのデビュー作から5枚目のBrain Salad Surgeryまで、全てのアルバムでクラシック、およびクラシック手法による現代音楽からの引用を行い(ネットで調べたところ、Works以降もやっていたようだが)、クラシック音楽をそのままロックのフォーマットに置き換えて演奏している曲さえある。その最たるものが名盤、Pictures At An Exhibitionであることに異論を唱える者はいないだろうし、俺自身がそうであったように、この作品をきっかけにしてクラシック音楽を積極的に聴くようになったロックファンも多くいたはずだ。近年では2ndアルバムに収録されている表題曲、組曲Tarkusが、交響曲として編曲され、実際にオーケストラで演奏され作品化されるという逆転現象も起こっているし、その作品が大河ドラマのテーマ曲として使われたのは多くの人の知るところだろう。これらの事実は、Emersonがロック界のみならず、クラシック音楽の世界にまで影響を与えた偉人であることを証明している。

俺がEmerson, Lake & Palmerを知ったのは4枚目のアルバム、Trilogy発表直後だったが、強烈な引力のある威厳のある音に一発でやられ、Rock好きの年上の従兄弟から過去作品の全てを速攻で入手、熱狂的に、それこそ狂ったように聴いていた。程よい暗黒感を漂わせる楽曲の数々、時折Greg Lakeが醸し出す叙情性、そして何よりEmersonの超絶プレイ、暴力的パフォーマンスには完璧に打ちのめされた。
 
これは1970年発表、バンドの名前(って言ったって、メンバーの名前を羅列しただけだが)を冠した記念すべきデビュー作。


Emerson, Lake & Palmer

Emerson, Lake & Palmer.jpg


歪みきったベースの音が強烈に印象的なThe Barbarianでアルバムは幕をあけるや否や、間髪入れずにEmersonが重厚なハモンド・オルガンで畳み掛けてくる。中間部ではスピーディーでスリリングなピアノを聴かせ、終盤には再びハモンド中心のヘヴィーなアレンジに回帰してくる。デビューアルバムの一曲目を飾るのに実にふさわしい威厳のある演奏。この曲の中盤はバルトーク作曲のピアノソロ曲を、ほとんどそのままロックのフォーマットにアレンジしたものである。が、俺が所有しているCD(日本盤)のクレジットを見ると、なぜか作曲はバンド名義になっている・・・ついでに日本語のライナーノーツを見ると、「これはまさにハチャトゥリアン音楽のモダン化である」などとある。ったく、笑わせてくれるぜ。

続くTake A Pebbleは、12分の長尺に、ピアノを中心とした静謐なバンド・アンサンブルが光る名曲だが、めまぐるしく曲調が変化する。中盤ではGreg Lakeが無伴奏でアコースティック・ギターのソロを聴かせる。バンドの持っている可能性を提示する為の曲、とも思えるが、やはり圧巻なのは終盤、一気に駆け抜けるスピード感のあるEmersonのジャジーなピアノだろう。そのまま大団円を迎えるかと思わせるや一転、冒頭のボーカルを伴うパートに回帰し、荘厳に終わる様は見事。

そしてLPではA面最終曲だったKnife Edgeは、印象的なメインテーマとLakeの低音での歌唱、Emersonの勇猛果敢なソロ、展開部のきらびやかな響きが魅力的な佳曲であるが、実はヤナーチェクの組曲、シンフォニエッタからフレーズを拝借している。実際に原曲を聴いてみると、驚くほど多くの部分がシンフォニエッタからの借用であるにも関わらず、完全にヘヴィなロックナンバーに換骨奪胎されているそのアレンジの手腕には驚かされる。また、展開部ではJSバッハの旋律が聴かれる。

さて、LPではB面の最初を飾っていた組曲、The Three Fates、これはクラシックの素養に抜きん出たEmersonの独壇場、と言って差し支えないだろう。パイプオルガンで荘厳に奏でられる第一楽章が終わると流麗なピアノが美しい第二楽章に引き継がれる。しばしの後、再びパイプオルガンが奏でられ、演奏にドラムが参入、スピード感あふれる最終章へと突入、3分弱を弾き倒すや曲は爆発音で唐突に終了。

そして爆音の余韻の中から始まるTank、序盤2分は決め所はあるが平坦な印象のバンドアンサンブルが続き、中盤2分はCarl Palmerのドラム・ソロが占めた後、終盤にきてようやくEmersonが奏するムーグ・シンセサイザーの音が聴かれるが、全体としては、やはりCarl Palmerに華を持たせるための曲以上の存在理由を考えられない。この曲がアルバム唯一の欠点、と言ってもいいかも。

さて、アルバム最終曲となるLucky ManはLakeの叙情性が全面に出た名曲だ。アコースティック・ギターに乗せて情感たっぷりに歌い上げるLake、不必要な程手数が多いPalmerのドラムも意外に効果的。簡潔ながらも印象的なLakeのギター・ソロも素晴らしい。驚くべきことに、Emersonは最後の1分半程のムーグを使ったソロのみしか出番が無い。
 

こうやって個別に曲を聴いて行くと、それぞれの曲は名曲にして名演と言うにふさわしいクオリティを持っているものの(Tankを除く)、各収録曲の根底に流れる一貫したものが感じられず、この作品を傑作、と断言することにいささかのためらいを禁じ得ない。しかし、バンドとしては、それまで別々のバンドで培ってきた音楽性や表現、そして、過去のバンドでは実現不能だったアイデアを出し合い、このフォーマットでどのような結果が出せるか挑戦してみた結果がこれだったのだろうし、曲配列の妙により、アルバムを通して聴いてみれば不自然さは感じない。
何よりも、Keith Emersonの堅牢な音楽理論、超人的技術に支えられた攻撃的な演奏は他の追随を許さない完成度を持ち、圧倒的な存在感でアンサンブルの中核を形成しているし、Lakeの叙情性も十分に尊重され、一つ間違えると無機質に響く危険性をはらんでいるアンサンブルに色と艶を与えている。この二名のカリスマに挟まれたCarl Palmerは若干可哀想ではあるが、無謀に弾き飛ばすEmersonに小技を繰り出しながら食らいついていくさまは実にスリリング。総じて、若くて意欲のある音楽家達が規制概念にとらわれず、比較対象のないオリジナリティを確立し、その後の栄光への道を切り開いた記念碑的作品だ。間違いなく、名盤保証、っつーか、この1stから5作目のBrain Salad Surgeryまでは全て名盤保証するけどね。


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俺の知る限り、Emerson, Lake & Palmerの活動が低調になってからのEmersonは、作曲能力を買われ、映画音楽の作曲等の仕事はしていた様だが、パフォーマーとしての存在感を生かし切れていなかったように思う。一時的にバンドを再結成をしたり、Lakeとツアーを行い、ライブ盤も残したりしているが、正直言えばかつての輝きは感じられなかった。

が、俺はEmersonの創作能力や意欲が失われた結果、活動やその評価が下降線を辿って行った、とは思っていない。幼少期からアカデミックな教育を受けて身につけた音楽理論、クラシック、ジャズ、ロックと、ジャンルを超えた彼のあり余る表現力と互角に渡り合える技術を持った共同作業者が周囲に居なかったが故ではないだろうか?事実、70年代にプログレッシブロックの黄金期を作ったミュージシャンの少なくない数が、80年代以降、同時代に活躍した有名バンドのメンバー達と交雑し、生き残こりの道を模索していたにも関わらず、Emersonはそういった混沌の中には名を連ねなかった。ある意味、あまりその姿を見せる事も無かったにも関わらず、孤高の存在として我々の記憶に残り続けたのは、彼が己の美学を貫き通した結果だったのか。その我々ファンの思いと評価は彼に伝わっていたのだろうか?
 

R.I.P



Emerson, Lake & Palmer

Emerson, Lake & Palmer

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Colum
  • 発売日: 2011/02/25
  • メディア: CD



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