THIS HEAT [Post Punk / Post Rock]
今から約30程年前、時代はパンク・ムーブメント真っ只中。Charlds Haywardという天才パーカショニストが中心となってどえらいバンドを作った。多くのパンク・バンドが既存の音楽フォーマット(ロックン・ロール)を素材に、若者を鼓舞するような表現を行っていたのに対し、このバンドの出す音は到底パンクとして括ることは不可能な陰惨な音を出していた。そのパンク以上に暴力的でありながら知的な音に、ある者は「なんじゃ?この気色の悪い音楽は?」と拒否反応を示したが、一部のコアなファンを掴み、絶対的なカリスマとなった。そして、そのカリスマ性は現在も全く失われていない。
THIS HEAT
アルバムは極々小さい発信音で始まる。耳を済ませていると唐突に始まる爆音のような演奏。異常に説得力のあるタイトなリズム、轟音のようなベース。中盤からは生々しいギターが演奏に参入してくるが、流麗なフレーズは皆無。そしてパーカッシブな短いカッティング。かと思うとエネルギーを指先から迸らせるかのような凄まじい勢いのカッティング。後につっかかるようなソロらしき音の無意味な上下運動が繰り返される。ぐちゃぐちゃに歪みきったオルガン。唐突な曲展開。そして続くのは・・・
涼しげな耽美。TREASURE / COCTEAU TWINS [Post Punk / Post Rock]
昨日の反省もあり、今日は暑苦しい音を選んで聴くのは止めにした。
で、選んだのがこの作品である。おお、この音は涼しいぞ。
TREASURE / COCTEAU TWINS
Cocteau Twinsは明らかにJoy Divisionの影響を受けており、デビュー・アルバムではゴシック風味満点の『女版Joy Division』とでも言えそうな暗い音を聴かせていたが、1983年に発表した3枚目となるこのアルバムでは、Joy Divisionの影をちらつかせながらも独自の耽美な音世界を追求している。この作品の最大の魅力はなんと言ってもElizabeth Fraserの表現力のあるボーカルだろう。造語を多用した歌詞で囁くように、時に朗々と歌い上げている。その表情は非常に豊か。また、多重録音も多用しており、複数の異なった発声法で異なったメロディーを同時に聴かせる、という表現方法も随所で聴かれる。これは非常に高い効果を生み出している。
ギターは概ねクリアーなトーンを選んで思慮深く演奏している。PersephoneやAmeliaの様にディストーションをかけている曲もあるが、低音弦でリフを弾き倒すようなメタルなことはせず、当時のNew Waveのバンドが好んで使用していた高音弦のカッティングを主体にプレイしている。ま、ある意味時代を反映したプレイではある。また、ソロらしいソロはほとんど聞かれない。Ivoの終了間際のコード中心のプレイや、Cicelyの中間部のようにフィードバック気味の単独プレイもあるが、これがソロと言えるかどうかは疑問であるし、多分、弾いてる本人も効果音のつもりでプレイしているのだと思われる。
ベースにはほぼ全編にわたってコーラス・エフェクトがかけられ、非常に輪郭のはっきりした音で軽くなりがちなバンド・サウンドに厚みを与えるのに貢献している。
このアルバムではドラマーは不在であり(というより、このバンドにドラマーがいたことはあるのだろうか?)、ドラム・マシーンの打ち込みにリズムを任せている。が、「明らかにドラム・マシーンとわかる音」が必要以上に大きくミックスされてしまっているのは残念だ。
アルバム全体を通して非常に透明感のあるサウンドが心地よい。これは多分に深くかけられたリバーブに依存している部分もあるが、バンドがアンサンブルを考えた時点ですでにこのようなミックスにすることはメンバーの頭の中にあったような気がする。
俺個人は1曲目のIvoの暗い進行の中に突如として現れる密やかな歓喜の表現、そして続く2曲目、Loreleiの儚げな美しさ、そして、最終曲、Donimoでの開放感が大好きである。
音楽の壊し方 (Out Of Cold Storage / This Heat) [Post Punk / Post Rock]
先日、吉祥寺のタワレコに赴いた際、とんでもない作品がリリースされていたことを発見!
This Heatの6枚組!?こんな恐ろしいものが世の中に存在したのか!?
驚天動地とはこのことである。既に発売されている4枚に加え、未発表のスタジオセッション、ライブを加えたのがこのボックス・セットの全貌らしい。俺は既に3枚ほど所有していたが、未発表音源をどうしても聴いてみたく、即決断!それにしても痛い出費である・・・
This Heatは1970年代終盤から1980年代初頭にかけて活動していたアヴァンギャルドな音響集団。主軸となっているのは鬼才パーカッショニスト、チャールズ・ヘイワード。
OUT OF COLD STORAGE / THIS HEAT
ほとんどの楽曲は大した脈絡も無く続き、時として唐突に終わる。一曲の中での音楽的整合性は価値基準から度外視されているようだ。ところどころ、King Crimsonに通じるような音響が垣間見られるが、これは偶然の産物であろう。
Heart And Soul / Joy Division (苦悩する魂の叫び・・・陳腐だな・・・) [Post Punk / Post Rock]
数年前、Joy Divisionの記念碑的作品集が発売された。スタジオレコーディングのオリジナル・アルバムをたった2枚しか発表していないバンドにしては4枚組、80曲超という圧倒的なボリューム。既存の音源に未発表曲、未発表テイク、ライブ音源で付加価値をつけた、ま、企画物である。
俺自身はオリジナル・アルバムは当然のこと、編集盤、ベスト盤、近年発表されたライブ盤を含む彼らの作品の殆どを所持しており、正直言えば「何を今更・・・」という気持ちが無いでもなかったが、ファンとは悲しいものである。結局、買ってしまった。
Heart And Soul / Joy Division
Joy Divisonは1970年代後半のほんの2~3年の間しか活動していない。にもかかわらず、一部で圧倒的な支持を得ている。理由は明白。彼らの代替がないからだ。当時、彼らのファンだった連中の殆どが、現在でもファンのはずだ。かく言う俺自身がそうだ。
Mr.BEAST / MOGWA (帰ってきた轟音ギター) [Post Punk / Post Rock]
20年以上前、ジョー・ダンテ監督、スティーブン・スピルバーグ製作の「グレムリン」という映画が公開された。いわゆる青春コメディー・ホラーなのだが、第二次世界大戦でアメリカが完全にぶったたいたはずの日本が、敗戦から時間が経過した今、様々な製品(主に電気部品)の輸出によりアメリカを脅かしているという、明らかな反日メッセージを持っていた。物語の内容がそれを示唆しているのではなく、はっきりと役者に台詞としてしゃべらせているのだからタチが悪いというか安直というか底が浅いと言うか…余りのことに腹を立てることも忘れ呆れてしまったことを覚えている。
そしてこの映画には、モグワイなる「飼い方次第では従順なペットにも凶暴な怪物にもなる不思議な珍獣」が登場する。唖然。
いったいどこまでつけあがるつもりなのか?おとなしい国民性を見越してのことなのだろうが、同じような事を他の国でやってみろってんだ。たちまち抗議運動が起こるぞ。
こうした悪意のメッセージを、大人向けの社会派映画でならいざ知らず、感化されやすい子供向けの映画に埋め込んで製作したスティーブン・スピルバーグの罪は重い。
それはさておき、このキャラクターと同じ名前を冠したグラスゴー出身のバンドの最新作。
Mr.BEAST / MOGWAI
MOGWAIとは、数年前に何の予備知識もなくCOME ON DIE YOUNGをショップでジャケ買いしたのが衝撃の出会い。どのような音を出すバンドなのか全く知らずに聴いたので、哲学的な音の佇まい、禁欲的なアンサンブル、時折見せる凶暴な表現に圧倒され、即座にファンになってしまった。
前述の映画のキャラクターからこのバンドの名前がついたということは想像に難くない。但し、このバンド自体に反日思想があるかどうかは不明。詳しく調べればわかるのだろうが、過去何回か来日したこともあるようだし、まぁちょっとした洒落なのだと思う。とはいいつつも、一枚目のジャケット写真は富士銀行の看板のアップだし、二作目にはkAPPAなる曲が収録されている。さらにこの最新作では日本語の語りまで収録されている。
MOGWAIはいわゆるメロディメーカーではない。元々ボーカルを伴う曲も少ないのだが、メロディーの良さよりも音の響きを重要視しているようだ。事実、いい曲だと思っても、よくよく聴いてみるとメロディーはやたらとプアーだったり、そもそもメロディーらしきものが存在しない場合もある。いわゆる「音響派」と言っていいのだろう。