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STARLESS、聴いてみた。 [Progressive]

さて、Robert Frippの過去音源整理事業からまたまた出てきたKing Crimsonの27枚組超絶ボックスセット、STARLESS、一通り聴き終わったので感想をしたためる

が、その前に、一応確認の意味で、このボックスセットの位置づけを整理しておきたいと思う。

このブログを読んで下さっている方のほとんどが共通の認識を持っていらっしゃると思うが、収録曲の多くがライブで演奏されたものをベーシックトラックとして製作されている、アルバムとしてのStarless And Bible Blackを、そのベーシックトラックとなった曲が演奏された公演の録音に加え、作品発表前後の公演の録音も交えて、検証、総括するマテリアルを提供しよう、というのが、製作側の意図、かつセールスポイントであり、購入者が納得できるこの作品の存在理由であると思う。まぁ、端的に言えば、Starless And Bible Blackの回顧企画と言って間違いないのではないか。


STARLESS / KING CRIMSON

starless.jpg


コンテンツの内容を再確認しておこう。1973年10月から、1974年4月にかけてのヨーロッパ、アメリカの各地でのライブを収録したCDが19枚、Starless And Bible Blackの2011年リマスター版CDが1枚。これら20枚のCDに加え、DVD-Audio(一部映像もあり)が2枚、Blu-ray Audio(一部映像もあり)が2枚。ここまではThe Road The Redとほぼ同じ構成なのだが、これらに加え、Bonus Disc名目のCDが3枚、駄目押しのようにご丁寧にもBootleg Quolityと断られているFrankfurtでのライブ音源のダウンロードチケット。

うわぁ、すげぇ量(笑)


先ずは手っ取り早く、ダウンロードチケットで入手したFrankfurtでのライブ、これは狭い会場で演奏しているようだが、演奏内容については他の公演と比べて何かが突出している訳でもないし、音質は最悪だし、おまけにLarks' Tongues In Aspic Part llの途中で終わっているしで、はっきり言ってThe Great Deceiver以降、Robert Frippが過去音源を手を替え品を替え乱発している現在においては価値を見いだすことは出来なかった。多分、二度と聴かないと思う。

そして、それぞれ2枚のDVD-AudioとBlu-ray Audioであるが、アルバムとしてのStarless And Bible Blackの5.1サラウンドだの、2011 Stereo Mixだの、Original Stereo Mixだの、果てはアナログ盤から起こしたものまでこれでもかとバージョン違いで収録されていたり、Amsterdamの公演がミキサー違いで何度も収録されていたり、録音状態のいい公演がチョイスされてハイレゾで収録されていたり、なぜかThe Road To Redに収録されていたPittsburghの公演が収録されていたり、Extra Tracksとして脈絡が感じられない音源が収録されていたり、そうかと思うと見た事がある画質の悪い僅かばかりの映像が収録されていたり、と、まぁ記憶媒体の容量のでかさにまかせて思いつくまま大量の録音を放り込んであるが、そのほとんどはミックスこそ違えど20枚のCDにほぼ網羅されており、本質的には変わらんので俺はパス。こんなのいちいち真面目に聴いてらんねぇ。勿論、ハイレゾの恩恵を十分に生かしきれる立派なオーディオセットを所有している人には多少のご利益はあるかもしれないけど。

そうなると、やはりThe Road To Redの時と同じように、20枚のCDが俺的メインコンテンツなのだが。

これ、素晴らしいです。The Road To Redには海賊盤から起こしたと思しき劣悪な音質のディスクもあったが、今回はそういったディスクは皆無。2,3枚、入力がオーバーロードしちゃっている録音もあるが、十分鑑賞に耐えるレベル。なんでも、所在不明の複数のライブの模様をオープンリールに記録したものを収納してあったケースが発見された為、このような良好な音質の録音が提供可能になったんだそうだ。勿論、曲の途中から始まっていたり、曲が最後まで収録されていないディスクも多いが、これは諦めてもらうしか無いなぁ。

なんと言っても中心となるのは、We'll Let You Knowのベーシックトラックとなった演奏を収録しているGlasgowの公演の模様2枚、The Mincerのベーシックトラックとなった演奏を収録しているZürichの2枚、そして勿論、Fracture、Starless And Bible Black、Trioのベーシックトラックとなった演奏を収録しているAmsterdamの2枚。Amsterdamの公演の模様は既にThe Nightwatchというタイトルで製品化されているが、新たなミックスダウンを施したようだ。また、この時の公演の模様をラジオ放送用にピックアップしたCDもセットに含まれている。俺が昔ラジオで聴いたのはこれだな。Exileに編集が加えられ、実際の演奏時間より短くなっているのは興味深いが、これ、単なる「かさ増し」じゃないか?本編があればいらないと思うが、まぁ、The Road To Redの時にも、USAの元ネタとなったAsbury Parkでの公演を、ミキシング違いで別々のディスクに収録するようなでたらめな真似をしていたので、このくらいは目をつむろう。

演奏内容については完璧、と言いたいところだが、やはり、ライブならではのミスも散見される。特に、Zürichの公演でRobert FrippがLark's Tongues In Aspic Part llのリフの回数を間違ってしまい、曲の開始早々にアンサンブルを崩壊の危機にさらしているのにはひっくり返った(笑)。他にもStarlessの中盤、ギターとリズム隊が拍がずれたまま延々と演奏を続行したり、Bill Brufordが合図となるフィルインの長さを間違ってしまい、演奏が混乱をきたしたり、やっぱりJohn Wettonがフレージングをためすぎてとんでもないタイミングで音を出したり、案の定、David Crossが構成を間違って慌てて軌道修正したり、全員のタイム感がばらんばらんに崩れちゃって演奏がまとまらない局面もあったり等々、結構やらかしちゃってます(笑)。

が、それらの不手際はごくごく僅かであり、ライブの記録として全体の完成度を鑑みれば十分許容範囲。逆にそういった人間味のあるところが妙に生々しく、面白かったりもするのだ。なによりも曲の骨格を十分把握した上で本筋から逸脱しない範囲でフレージングを変え、それに触発された各メンバーが臨機応変に対応し、既存の曲が微妙に表情を変えて提示される様は圧巻で、これがあるから収録曲が大量に重複していても面白く聴けるのだと思う。勿論、ほとんどの公演で聴かれる、即興演奏の面白さについては何をか言わんや、である。
Disc20のStarless And Bible Blackの2011ミックスは、音の分離が前より良くなっているような気もするが、有り難みは少ない、と言わざるを得ないが、とりあえずこのボックスセットの構成から考えると、収録しない、という選択肢はなかったんだろうなぁ。

さてさて、残るは3枚のボーナスCD。音質はどれも海賊盤レベルなのでボーナス扱いなのだろうが、と、言うより、実際に海賊盤から起こしていると思われるが、これが意外と面白いのだ。

Disc25はテキサス大学での公演の模様。会場が盛り上がっている様子も伝わるいい感じの録音なのだが、中盤に演奏されているFracrtureがちょっとした手違いにより、とんでもないことになっているのである。ご存知の通り、Fractureという曲は演奏中に個人の裁量によって構成を変えたり出来るような単純な曲では無く、起承転結が厳密に設計されている堅牢な難曲なのだが、展開部分で一瞬Frippがボリューム操作を間違ったことによりBill Brufordが暴走を始め、それにJohn Wettonが反応して原曲には無いインプロが始まってしまうのである。ま、収録時期が本編に収録されている録音より若干早めなので、まだアンサンブルが完成されていなかった、と考えることも不可能ではないのだが、途中、Frippが本来の展開に戻すべく手を尽くし、どうにか軌道修正出来たものの、今度はFripp自身がインプロに突入し、曲が変な方向に向かってしまうのだ。まぁ、最終的にはどうにか巧く帳尻はあうのだが、いったいどうなってしまうのか、ハラハラドキドキなのである。多分、Frippは主にこれを聴かせかったのだと思うし、実際、非常に興味深く聴いた。

Disc26に収録されているのはDisc25の続きと、Atlantaで演奏されたアレンジ違いのDoctor Diamond、そしてZürichの公演で演奏されたインプロに挟まれたThe Mincer、これは本編、Disc4に良好な音質で収録されているのだが、Disc26で聴かれるThe Mincerにはボーカルが収録されていないのだ。Disc4のThe MincerにはStarless And Bible Blackに収録されていたのと同じく、ボーカルが収録されているのだが、どうやらこれは後からオーバーダブしたらしい。そもそもJohn Wettonの声が複数聞こえてくるし(笑)。多分、Starless And Bible Blackを製作する過程で、マスターの絶対にミュートできないトラックにボーカルを被せてしまったのだろう。で、「本来はこうでした」と、海賊盤から補完したものだと思われる。最後はMainzの公演からEasy Money、Fracture、Larks' Tongues in Aspic Part llが収録されている。本編のMainzの公演はFractureが冒頭の1分程度しか収録されておらず、シームレスにつながっている直前のEasy Moneyがパワー炸裂の名演であるだけに、The Collectable King Crimson Vol.1に収録されている録音を聴いた時から不満に思っていたのだが、これでようやく溜飲が下がったというものだ。

そしてDisc27はUdineの公演の模様。Disc7にもたった3曲、25分が収録されているが、収録内容から察するにコンサートの最後の3曲と思われるので、おおかたスタッフが録音操作を忘れたのをステージ終盤になってようやく気がつき、あわててテープを回したものだと思われる。これを補完する目的で海賊盤から起こして収録したのでは、とも思えるが、実は、きちんと作曲、作詞がなされていながらも、正規作品への収録はおろか、40年を超えるKing Crimson史上、一回しかステージで演奏されなかった幻のオリジナル曲、Guts On My Sideが聴けるのだ。実際の曲はRock'n'Rollの匂いを漂わせる比較的ストレートな曲調で、一回人前で披露はしたものの、「これはKing Crimsonがやるべき音楽ではない」と、Robert Frippがボツにしたのもわかるが、資料的価値はきわめて高い。

と、まぁ、この3枚のボーナスCDは音質が悪くともそれぞれに存在価値があるのだ。これはFrippにしては気の利いた計らいと言えるのではないだろうか?

結果、俺はこのボックスセットに期待していた以上の大きな満足感を得ることが出来た。さすがにそれなりの投資は必要になるが、それに見合う以上のものはある。と、言う訳で、万人に、とまでは言わないが、The Great DeceiverやThe Road To Redに一定の価値を見いだす事の出来る人には強力に推奨します。また、The Road To Redに興味はあったが購入を見送った方、こちらにもちゃんと(曲としての)Starlessが複数回収録されていますので、こちらをおすすめします。


ちなみに、The Great Deceiverに収録されていた1973年のライブ音源は全てこのボックスセットに含まれており、同じくThe Great Deceiverに収録されていた1974年のライブ音源は全てThe Road To Redに収録されているので、The Great Deceiverの影が薄くなってしまいました(笑)。また、Mainzの公演の模様も含まれており、The Road To RedではAsbury Parkの公演の模様が収録されているため、The Collectable King Crimson Vol.1も同様に存在理由があやふやになってしまいました。あ、Mainzの公演はThe Collectors' King Crimson BOX 3にも収録されているので、The Road To Red発売時点で既に存在理由は無くなっていたのか。あ、それ言うならThe Nightwatchの立場は?(笑)


さて、気になるのは、Frippの過去音源整理活動がこれで終わるのか、ということだ。In The Court Of The Crimson Kingは総括されちゃってるし、Larks' Tongues In Aspicも総括済み。In The Wake Of PoseidonやLizard、Islandsの時代の良好な音質のまとまった音源は期待出来ないだろうしこれで打ち止めか?

あ、そういえば80年代初頭、Robert FrippはDiscipline(鍛錬)というバンドを結成し活動を行い、そのメンバーのままKing Crimsonを再結成、その後に発表したアルバムの名前もDisciplineだった。もしかして、Discipline名義時代や改名後の初期ライブ音源や、リハーサルの模様を一纏めにして、Under Disciplineとかいう名前でパッケージ化するんじゃねぇか?ボーナスCDはLeague Of Gentlemenのライブだったりして・・・


うわ、やべぇ。俺、買っちまいそうだ・・・




Starless -Ltd-

Starless -Ltd-

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Discipline Global
  • 発売日: 2014/11/03
  • メディア: CD



Starless & Bible Black: 30th Anniversary Edition

Starless & Bible Black: 30th Anniversary Edition

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Discipline Us
  • 発売日: 2005/07/19
  • メディア: CD



The Road To Red (21cd+Dvd-Audio+2blu-Ray)(Limited Edition Box Set)

The Road To Red (21cd+Dvd-Audio+2blu-Ray)(Limited Edition Box Set)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Panegyric
  • 発売日: 2013/10/17
  • メディア: CD



The Collectable King Crimson, Volume One:

The Collectable King Crimson, Volume One: "Live in Mainz,1974" "Live in Asbury Park, 1974"

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Discipline Us
  • 発売日: 2006/11/07
  • メディア: CD



The Great Deceiver 1: Live 1973-1974

The Great Deceiver 1: Live 1973-1974

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Dgm / Inner Knot
  • 発売日: 2007/11/13
  • メディア: CD



The Great Deceiver 2: Live 1973-1974

The Great Deceiver 2: Live 1973-1974

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Dgm / Inner Knot
  • 発売日: 2007/11/13
  • メディア: CD



COLLECTORS’ KING CRIMSON [BOX3] 1972-1974

COLLECTORS’ KING CRIMSON [BOX3] 1972-1974

  • アーティスト: キング・クリムゾン
  • 出版社/メーカー: WHDエンタテインメント
  • 発売日: 2007/09/21
  • メディア: CD



Night Watch

Night Watch

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Discipline Us
  • 発売日: 1998/01/13
  • メディア: CD



Usa - 40th Anniversary Edition (Cd+Dvd-Audio)

Usa - 40th Anniversary Edition (Cd+Dvd-Audio)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Panegyric
  • 発売日: 2013/10/17
  • メディア: CD


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