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幻視と瞑想のガムラン / ティルタ・サリ [ガムラン]

ちょっと前に、JVCから発売されている、ティルタ・サリの「絢爛と超絶のガムラン」を取り上げた時に、「以前はもう一枚発売されていたが、廃盤になってしまっている」と言う旨を書き添えた。

その問題の廃盤がこの作品。


幻視と瞑想のガムラン / ティルタ・サリ

vic tirtasari.jpg

スリーブを見ると、この作品の録音時期は1985年の1月とある。まだ、楽団の創設者であるアナック・アグン・グデ・マンダラ翁が存命中の貴重な録音だ。ちなみに録音場所はPeliatan Villageとのみある。音の響き方から察するに、床がタイル張りで壁はほとんど無い半屋外の比較的大きな開放的な建物で収録されたものだと思うのだが、車やバイクの騒音が聴かれない。多分、どこかのバレ・バンジャール(村人の寄り合い所)が収録会場になったのだと思う。いや、もしかしたらプリ・カレラン(マンダラ家)の敷地内の通りからかなり離れた収録に適した建物があったのかもしれないが・・・いずれにせよ、いくら30年近く前とは言っても、このような録音に適した静寂を保った場所がプリアタンにあった事は驚きだ。
その一方、数カ所で、少人数の拍手が聴こえる。おそらく、収録を目的とした演奏であることを知らない村人が音に導かれてやって来て、思わず拍手してしまったものだと思われる。録音者にとっては頭の痛いことだろうが、ま、バリにおいては万全の体勢を整えたつもりでも、予測し得ないような事態が起こる事はままあることで。と、言うより、100%思い通りに行く事などありえないので、この程度の事故で済めば御の字だ。

そうそう、肝心の内容。

アルバムは「絢爛と超絶のガムラン」でも収録されていた舞踊曲、Tarna Jayaで幕を開ける。緩急の差が激しい、実にダイナミックな演奏。比較的短いタームでテンポ・チェンジを繰り返す難しい曲展開において、実に制御の行き渡ったコントロール、及びコンセントレーション。番いリズム奏法で演奏されているフレーズの編み目模様がはっきり解る見事な演奏。Semar Pegulinganに特徴的なソリッドな音響的特徴が功を奏し、実に切れ味の鋭い印象の演奏。本来、操作性の良い、即ちGong Kebyar編成で演奏されることを前提とした作曲がなされているこの難曲をSemar Pegulinganを用い、この精度で演奏出来る事自体が驚異的だ。

続いて舞踊曲、Raja Palaであるが、察するにこの演目は1985年の来日公演に狙いを定めて創作された演目ではなかろうか?イベント的な演奏機会(例えば海外公演)があるとガムランの楽団はオリジナルを創作するのは良くある事だが、このレコーディング時点ではなんとなくこなれていない印象を受ける。僅かながら演奏の不手際も聴いて取れるし。まぁ、普通に聴いていたのでは解らないレベルではあるが。

3曲目は「絢爛と超絶のガムラン」にも収録されていた舞踊曲、Kebyar Trompong、これはそつなく決まっており、安心して聴いていられる。曲自体の魅力もさることながら、演奏が充分こなれており、堂々とした雰囲気を醸し出している。楽団の重要なレパートリーであることが解る。
察するに、この重厚な雰囲気は、当時、この舞踊のカリスマ的踊り手であったA.A.Gede.Bagus氏の舞踊表現を楽団が最大限に尊重した結果だと思われる。おそらくこの録音の収録時にもA.A.Gede.Bagus氏が踊っていたと思われる。

さて、アルバムはいよいよ大団円、控えているのは超有名舞踊曲、Legong Keraton (Lasem)なのであるが。

いやぁ、これは凄い。そもそもティルタ・サリの使用する楽器編成はレゴン舞踊の伴奏を大きな目的としているものなので、楽器の響きと曲の相性がいいのは当然なのだが、洗練された技量により曲の魅力が引き立っている。緩急の大きな実に情緒的な演奏。滑らかに、艶やかに、そして力強く、要所では激しさを表現しながら素晴らしいアンサンブル力と楽器の持つ音響的特性が見事な相乗効果を見せ、実にあでやかな印象。もちろん、演奏が乱れる局面は一切ない。誰が何と言おうが名演確定。

通常、この演目は20分程度の短縮バージョンで上演されるのが一般的なのだが、ここでは28分のロング・バージョンが披露されている。この28分を飽きさせる事無く一気に聴かせる。気がつくと音に没頭しており、魂を持って行かれそうだ。それほどまでに感性に訴える根源的な音の力がこの演奏には宿っている、と思う。


この作品、出来るだけ多くのガムラン愛好者、いや、音楽を愛好する者に聴いて欲しいのだが、冒頭でも触れたように、何故か廃盤なのである。音質も非常に良好で、収録曲数こそ少ないものの演奏内容も充実しており、俺が所持している数百に及ぶガムラン音楽の作品の中でもトップ5に入る傑作なのに、本当に理解に苦しむ。

JVCには、可及的速やかに再版を望みたいところだ。



何故か、同じ内容のUS盤が存在する。しかし、アメリカでプレスしているとは考えにくいので、おそらく、在庫のみだと思うが。

Indonesia: Gamelan Semarpegulingan 1

Indonesia: Gamelan Semarpegulingan 1

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Wea/Sire/Discovery/Antone's
  • 発売日: 1994/07/12
  • メディア: CD



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