SSブログ

LIKE RATS / MARK KOZELEK [Rock]

Red House Painters解散後、Sun Kil Moonを主宰しつつ、ソロ活動を積極的に行う鬼才、Mark Kozelekの新作。俺はMark Kozelekのカントリー・テイストを纏いつつも醒めた雰囲気を漂わせる音の大ファンで、作品を見かければ購入するようにしているのだが・・・


LIKE RATS / MARK KOZELEK

mk.jpg

この人、色々な意味で節操が無い。Sun Kil Moonとしての活動とソロ名義の活動も明確に分けられていない。Mark Kozelek本人のみしかレコーディングに参加していない作品もバンド名義で発表したりしているし、ソロのライブ盤ではソロ作品として発表した曲のみならず、バンド名義で発表された曲も演奏・収録していたりする。ま、著作権者はMark Kozelek本人なのだろうからさほど問題はないのであろうが、そのライブ作品が、この数年、尋常ではないペースでリリースされているのだ。
実はこれらライブ盤の多くは、所属(主宰?)するレーベルの商品をメールオーダーした者に無料配布される、いわばボーナスディスクだったりするのだが、そのボーナスディスクさえもインターネットでダウンロード販売されちゃうと、何聴いても似たような音だし、もうどうしていいんだかわかんねぇや、俺(笑)。

この人の作品創りで何より驚くのは、まったくジャンルの異なる他人の曲のカバーを頻繁に行うことである。元ネタはプログレからパンクまでなんでもあり、そして、原曲のオリジナリティに対する敬意はほとんど払わず、自分の歌い易いようにアレンジを加え、下手するとメロディーさえ変えてしまう。勿論、著作権協会にはちゃんとした楽曲の使用料は払っているんだろうが、あそこまで原曲のイメージを変えてしまうと、気分を害する著作権者だっているに違いない。いままでトラブルが起こったことはないのだろうか?

この作品も、ざっと曲名を見ただけで、Yesや、Genesis、Misfits等のカバー曲が散見される。もしかしたら俺が知らないだけで他の曲もカバーだらけなんじゃなかろうか、と、オフィシャルサイトを確認したところ、なんとこのアルバムはカバー曲のみで構成されているようだ。全くよくやるよ。
ひっくり返ったのがアメリカン・ハードロックのアンセムとも言えそうな超有名曲、Ted NugentのFree For Allのカバー。さすがにこの曲は「それなり」に、原曲らしさを残した編曲がなされており、一聴しただけで、「まさかと思ったが、やはりこの曲だったか・・・」と納得したが、もしあの曲を跡形も無い滅茶苦茶なアレンジで演奏したら、血の気の多いかつてのHells Angels達が徒党を組んでコンサートを潰しに来たとしても、俺は全く驚かないね。

まぁ、それはさておき。

肝心の演奏内容は、アルベジオを多用するアコースティック・ギターとボーカルを中心に据え、簡潔かつ控えめのベースが要所で補強する形で構成されている。一曲のみ、スネアのブラッシュュワークらしきものが聴こえる曲があるが、あまりにも音が小さすぎてよく解らない。いずれにせよ、いたってシンプル。アコースティック・ギターは複数本聴こえる局面がある。ダウンロード販売で購入した為、文字情報がほとんど無いので断定できないが、多分、Mark Kozelek、本人一人による多重録音だと思われる。コーラスに至っては何をか言わんや、すべてMark Kozelekの声である。

そして全ての曲が他人の曲であるにも関らず、前述のように、Mark Kozelekの手によって全く原曲と異なる独自の雰囲気を漂わせる作品に生まれ変わっている。このあたりのことが、この人が『鬼才』と評される所以の一つだろう。
しかし、それはアレンジの妙のみによって決まるものではなく、Mark Kozelekの声が持つ独特の雰囲気も大きく作用していることは間違いない。声質は全く異なるが、Peter GabrielやPeter Hammille、Robert Wyatt等のカリスマが持っている、『声による魔力』とでも言えそうなものをMark Kozelekもまた持っているのだ。彼がアコギをつま弾き、淡々と歌い始めると、もうそこは荒涼とした砂漠にたたずむ廃墟。決して昂る事の無い歌唱、そして演奏。ただただ淡々と時間だけが流れて行く。いや、時間すら止まっているかのような錯覚さえ起こさせる。事実、俺は彼の作品を一旦聴き始めると終わるまで気がつかないことがままある。さっきもこの文面を打ち込みつつ当該作品を聴いていたが、「え?もう全部聴いちゃったの?そんなに時間が経っていたのか?」と、驚いた。

前述の通りなので、この作品にロック・スピリット溢れる演奏やメッセージ性をもった熱い歌唱は望むべくもないし、Slow Coreの重要人物とされたかつての評価を現在のこの音から感じ取れるかどうかも怪しいところであるが、要は、この、やる気のなさそうな醒めた声に魅力を感じられるかどうかがMark Kozelekを好きになれるかどうかの分かれ道である、と思う。

もちろん、俺はこの声に非常に抗いがたい引力を感じている。



Like Rats

Like Rats

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Caldo Verde
  • 発売日: 2013/02/19
  • メディア: CD



コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0