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The Psychedelic Furs [Rock]

1980年発表、当時は「Punk/New Waveの新星か?」と思わせたバンドのデビュー作。

このバンドは本当に惜しい事をしたよなぁ…

The Psychedelic Furs

psychedelic furs.jpg

この作品で特筆すべきはボーカル担当、Richard Butlerの歌唱だろう。声質は若干かすれ気味ではあるが、David BowieやPeter Murpheyを思い起こさせる。野放図に怒鳴りまくったりせず、どこか冷めた暗い雰囲気を漂わせており、なかなかデカダンな魅力があるが、残念ながら冷静に聴くと歌唱力が不足している印象は免れない。
まぁ、Punk/New Waveの新人バンドに歌唱力を求めるのもどうかしているとも思うが、前述の通り、声質がDavid Bowieに似ているもんだからどうしても期待してしまうのだ。多分、本人もある程度意識していたと思われる節もある。

曲によってはやはり時代を反映したNew Wave/Punkを意識した結果と思われる一本調子な歌唱が聴かれる。この姿勢は演奏面にも現れている。残念な事に曲によっては明らかに消化不足、もしくは魅力を見出せない曲も何曲かあるが、Punk/New Waveの流れの中で出てきた新人バンドのデビュー作としては充分許容範囲であり、何曲かで素晴らしい結果が出ているので帳消しだ。

その素晴らしい曲とは、冒頭のIndia、続くSister Europe、Fall、Imitation Of Christ、Wedding Song等である。

特に冒頭を飾るIndia、これは名曲だ。ギターの奏でるメインフレーズがフェード・イン、ところどころ効果音が入り、キーボードが若干の色を与えていく。これから何かが始まる、という期待感がじわじわと盛り上がってくる。これが延々と2分。じらすだけじらせておいて、突如曲は一転、ドラムの叩き出すシンプルなビートと若干歪み気味の単調なベースが8小節に渡って疾走。これにギターが参入し、音は一気に開放感を獲得する。程なくパンキッシュな歌唱法のかすれたボーカルが参戦。ところどころサキソフォンやギターのオーバーダブが曲に華を与え、一気に駆け抜けていく。爽快!実は、この一曲の為に俺はCDでの買い直しを決断した(我ながらアホだなぁ…)





続くスロー・テンポなSister Europeではどっしりとしたリズムにコーラス・エフェクトのどぎついギターが乗り、サキソフォンがこれでもかと吹き鳴らす。ボーカルもIndiaに比べれば低音が中心の落ち着いた歌唱でデカダンスを感じさせる。
ミディアム・テンポのFallではサキソフォンが担当する簡潔なメイン・フレーズが非常に効果的。後半、ドラムのみにバックにのせて途切れる事無く淡々と歌い続けるボーカルもなかなか斬新なアプローチで魅力的である。呼吸が続かないせいか一回では歌いきれず、途中でパンチインしている跡が聞き取れるのは、ま、ご愛嬌である。
また、Imitation Of Christは、「これ、David Bowieに作曲してもらったのか?」と思うくらい曲、そしてアレンジがいい。David Bowie本人に歌ってみてもらいたいくらいである。
Wedding Songは若干乱暴な演奏、アレンジながら、単調な曲の中でギターが様々なアプローチを試みており、「他の連中には出せない俺たちの音を創りたい!」という熱意が感じられ、好感が持てる。

演奏技量面に関しては、ドラムは残念ながら「ど下手」とまでは言わないまでも、力量不足が聴いて取れる局面もある。ベースは硬質な音でバンドの音にかなり貢献している。が、この時代はピック弾きで硬質な音を出し、ルートを逸脱せずに効果的なアプローチを要所で行えば「上手い」と言われた時期でもあるので(一部、Stranglersのような例外もあるが)まぁ、平均点なのだろう。ギターは歪み系エフェクターやワウ、コーラス・エフェクトを多用し、色々と音響的に工夫している。プレイもそれなりに考えて行っているようだ。
が、やはり存在感のあるのはサキソフォンであろう。普通のバンドならギターにソロを任せるところを堂々と吹いている。技量のほうは特段飛びぬけているとも思えないが、センスよく音の隙間を埋め、ボーカルが歌っている局面でもツボに入ったオブリガートを効果的に入れる。もし、この作品にサキソフォンが無かったら…う~ん、凡百のバンドっていう整理になってしまうかも。

全体的に奥に引っ込んだ音響設計。正直言って「生々しい音」とは言えない。時としてぐちゃっとした感じになり、未整理な印象も受ける。また、目指したアプローチを技量面の問題で実践できなかったと思われる荒削りな部分も聞いて取れる。もしかしたらギターのオーバー・ダブはエフェクトのかかり具合の不自然さから察するに、アンプを通さずにライン直結で行なっているのではないだろうか?これが制作費不足のためだったのかどうかは解らないが、結果としてフラットで冷めた雰囲気に一役かっているような気がする。

実は俺はこの作品になんとなくDavid BowieのDiamond Dogsに似た味わいを感じている。多分にサキソフォンがアンサンブルに与える「音の艶」に由来してのものだとは思う。残念なことにDiamond Dogs程曲配列に注意を払っていないが、時間をかけて作品創りに取り組めばもっといい結果が出たような気がする。もちろん、それでもDiamond Dogsを超えられるとは思えないが…


この作品発表直後、しばらくの間は、その暗めの表現から「これはJoy Divisionの再来、もしくはBauhausの対抗馬となるか?」と、一部のリスナーを期待させたが、残念ながらその後演奏能力こそ上がったもののポップな路線にバンドの方向性が向いてしまった。結果、中途半端な印象をリスナーに与えることとなり、Joy DivisionやBauhausのカリスマ性を獲得することは出来なかった。


あのままデカダンスを前面に押し出した作品創りをしていればよかったのになぁ…残念。


と、いいつつも、俺は現在でもたまに(何曲か飛ばしながら)気持ちよく聴いている。名盤、といえないのが残念だが、興味があったらIndiaだけでも聴いて欲しい。圧倒的な開放感が得られる素晴らしい曲である。



The Psychedelic Furs

The Psychedelic Furs

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Sony Mid-Price
  • 発売日: 1990/10/25
  • メディア: CD


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