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Black Dance / Klaus Schulze (救いの無い暗黒感) [Ambient/New Age/Experimental]

高校時代、通学路の途中に仲のいいロック好きの友人宅があって、毎日のように下校途中に寄っていた。彼は家族に干渉されることの少ないロフト(っつーか、屋根裏部屋)を与えられており、更に高校生の分際で大きなステレオを所持。当然、ロック好き仲間が集まり、新しいレコードを買っては彼の家に持ち寄り、聴きふけっていた。つまり、溜り場だったわけだ。

で、いつものようにクラブ活動で遅くなり、下校途中に彼の家に寄ると、丁度新しいレコードを買ってきたところだという。

友「おう、来たな。丁度レコード買ってきたんだよ」
俺「え、なに?」
友「クラウス・シュルツのブラック・ダンス」
俺「クラウス…何だって?」
友「クラウス・シュルツ!」
俺「…知らん…」
友「なんでも、このレコード聴いてバッド・トリップして死んだ奴が出たらしいぜ」
俺「え?」
友「俺、ちょっと一人で聴くのが怖くてさぁ」
俺「…俺だってこええよ…」
友「…聴く?」
俺「…聴くか…」
友「具合悪くなったら言えよ」
俺「ああ。お前もな」
友「じゃ、かけるからな。いいな?」
俺「あ、…ああ」

果たして流れてきたのは今まで聴いた事もないような不気味な音楽。俺は全神経を集中させ、音に没頭した。

友「おい、具合悪い?」
俺「…いや、音は気持ち悪いけど…」
友「…俺も…」

何事もなくA面終了。

友「なんだぁ、たいした事なかったな。はははは」
俺「そうだな。はははは。」
友「…B面も聴く?」
俺「…聴くしかねぇだろ…」

おお、これはA面よりも気持ち悪いぞ。何か起こりそうな気配…これはより一層神経を集中させねば…

と、思っていると、階段からおふくろさんが大声で声をかけた。

母「おーい、夕ご飯、何にする~?」(注:彼の家は個人商店を営んでおり、夕飯を店屋物にすることも多かったようだった)
友「友達来てるからカツ丼ふたつ~!
俺「すまんな…

と、まぁ、この作品とはこんな出会い方をした。


Black Dance / Klaus Schulze

klaus schulze bd.jpg

発表は1974年。初期Tngerine Dream、初期Ash Ra Tempelをドラマーとして渡り歩いたKlaus Schulzeのソロ3作目(だったと思う)。当時、この作品を聴きながら薬物を摂取した者が帰らぬ人となった、という情報が流れて話題になったが、なぁに、たかだか高校生が引き出しの奥に隠したジョニー・ウォーカーを薄い水割りで飲みながら聴いたって何も起こるはずなんぞ無い。せいぜい悪酔いして気分が悪くなるのが関の山だっての(笑)。


実はこの作品、物凄く好きである。どのくらい好きかと言うと、ボーナス・トラックも無いのに、レーベル違いのCDを2枚購入したほどである。


LP時代はA面2曲、B面1曲。アルバム全体を通して、Klaus Schulzeの元々のキャリアであるドラムの音は聴かれない。リズムはもっぱら電子機材に任せている。そのリズムも音圧は皆無。音響的には必然性は感じられないが、その必要以上のスピードに切迫感を感じる。この上にコンガらしきパーカションも参入し、ところどころアクセントを入れる。これが効果的かと言えば…う~ん、微妙だな。
これらのリズムの上にストリングス系のキーボード、オルガン、シンセサイザーが被る。ところどころ不安感を煽るシンセによる(と思われる)効果音も入る。B面をぶち抜く曲では外部委託したと思われるボーカルがクラシカル風味の独唱を聞かせるが、これも特に曲とシンクロしているわけではなく、音響の一部として聴かれるべく収録しているようだ。
多分、A面の2曲目は時間あわせの為、もしくは少ない曲数の中でバリエーションを持たせる為に収録されたものだろう。ストリングス系のキーボードの即興演奏(多分)にエフェクト処理をした程度のもので、特筆すべきところは無い。

こう整理してみると「なんで俺はこの作品が好きなんだろう?」と思わないでもない。しかし、答えははっきりしている。


作品を横溢する救いの無い暗黒感が魅力的なのである。


万人に受けいられることを最優先目的につくられた『ポップ・ミュージック』以外の音楽、例えば『プログレッシブ・ロック』等を聴くとき、聴き手はより多様な期待をする。それは例えばミュージシャンシップ溢れる超絶テクニック、それは例えばクラシックの交響曲に通じるような高度なアンサンブル、それは例えば斬新な音響処理による未来感、などである。これらは気分を高揚させることを目的としている点で、アプローチこそ熱効率が悪いものの、『ポップ・ミュージック』と最終的な目的に大きな違いは無い。

しかし、それとは別に、『ネガティブな気分になる』、言い換えれば、不安になる音響に魅力を感じる者もいるのだ。そしてこの作品はこの『ネガティブな気分になる』ことに徹頭徹尾特化した作品、だと思っている。

前述の通り、それぞれの曲は大きな盛り上がりも無く、フラットで切迫感を煽るような演奏が淡々と進行する。一般的にはサイケデリック・ロック、もしくはプログレッシブ・ロックとして分類されるのが妥当なのだろう。多分にドラッグ・カルチャーを意識しての演奏だと思う。確かに薬物の類を摂取しながら聴いたらどこかに持っていかれそうだ。かといってPink Floydのような酩酊感を助長させるようなある意味エロティックな音ではなく、どこまでも醒めきった音。太陽が落ち、薄暗くなって気温が下がってきた荒涼とした乾ききった大地を目的地もわからないまま後ろから何者かに追い立てられて延々と走っているような感じ。

ところで、このジャケット・デザイン、どう考えてもシュール・リアリズムの巨人、サルバドール・ダリの作風に影響を受けているよなぁ…そういえば、Klaus Schulzeがかつて在籍していたTangerine Dreamはデビュー前にサルバドール・ダリとコラボレーションをやっていたっけ。ま、いずれにせよ、難解な暗黒系の音楽とシュール・リアリズム絵画の視覚に訴える相乗効果には絶大なものがあると思う。

後にKlaus SchulzeはTangerine Dreamと同様、シンセサイザーを多用し、New Ageの元祖的な扱いを受ける訳だが、あまりにも多作すぎて全て聴く事は不可能。たしか、数年前にはライブ・パフォーマンスを収録した80枚組というとんでもない作品を発表したと記憶している。


いくらステージは即興演奏だと言っても、それはやりすぎです!



Blackdance

Blackdance

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SPV
  • 発売日: 2007/05/22
  • メディア: CD



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