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彼女はアートだ、RID OF ME / P J HARVEY [Rock]

どこでどう知ったのかは覚えていないが、『凄い女性ボーカリストがいる。とにかく聴いてみるべきである』、という情報が俺の頭にインプットされた。名前は直ぐに忘れてしまったが、某ショップに赴いたとき、あるジャケットが目に留まった。バスルームで濡れた髪を振り乱す女の白黒写真。「あ、これだ。間違いない」俺は直感し、迷わず購入した。果たして、その『凄さ』は俺の予想を遥かに凌いでいた。

RID OF ME / P J HARVEY
 

p j h rom.jpg

確か1993年発表。P J Harveyの二作目。

P J Harveyは、ボーカリスト、Polly Jean Harveyの名前を冠したプロジェクトである。前述の通り、彼女は『女』であることは間違いないのだが、Pollyはそんじゃそこらのメタル野郎では太刀打ちできないうようなとんでもないパワーを発散する。

このアルバムは基本的にスリー・ピースで録音されている(一曲のみ、アヴァンギャルドな弦楽ユニットとの共演がある)。すなわちギター、ドラム、ベースのみのロックとしては最小限のユニットである。さらに、ボーカルを担当するPolly 自身がギタリストも兼任している。
スリー・ピース・バンドというと、各ミュージシャンが高度な技術で火花の散るようなインタープレイを繰り広げている、と早合点する向きもあろうが、これははっきりと違う。

まず、ギター・ソロらしきものは見当たらない。中心となっているのは、Pollyがかきむしるように鳴らすぶっとい音のテレキャスター(多分)。そして、思いのたけを赤裸々に、時に囁くように、時に叫ぶように歌うPollyのボーカル。欲望、葛藤、絶望、その他諸々のPolly自身が内包している感情をぶちまけてくる。その凄絶なまでに潔い姿勢はこの上なく美しい。そして彼女の表現を堅実に、そしてシンプルながらも恐ろしいまでの力強さを持ってサポートするドラムとベース。しかし、この演奏はサポートと言っていいのだろうか?どちらかというと互角に闘っているといった風情だが、いずれにせよ一切手抜きはしていないのが解る。鉄壁のリズム隊と言っていいだろう。

それにしてもこのグルーブ感は凄い。エフェクターの使用は最小限(ディストーション、もしくはパワー・ブースターの可能性もある)におさえており、やたら音が生々しい。若干のオーバー・ダブの跡は見て取れるが、ほとんどは一発録りだと思われる。もしかしたら、ボーカルすらギターを弾きながら同時に録音しているかもしれない。とにかく、ラウドであるにも関わらず分離が良く、明快、かつ力強い。そしてダイナミック。素晴らしい。

一曲のみを取り出して聴いてしまうとこの作品の価値は下がってしまうが、俺は一曲目の表題曲、Rid Of Meから二曲目、Missedの流れが大好きである。特にRid Of Meの動と静の対比は、見事を通り越して暴力的ですらある。俺はいまだにこの曲を聴くたびに鳥肌を立てている。

全編を通して、女性ボーカリストのアルバムにありがちなハッピーな曲、及び音作りはしていない。どちらかというと陰惨と言っても過言ではない音が多い。が、そのあまりの説得力に中断することも出来ずに最後まで聴きとおしてしまう。

 

はっきり言う。これは娯楽音楽ではない。アートである。

残念ながら、このときの録音メンバーとは決裂してしまったようで、後に他の作品を購入したところ、バンド・サウンドがとても耳ざわりのいい妙に洗練されたものになってしまっていた・・・Pollyのボーカルの説得力こそ相変わらず素晴らしかったが、Rid Of Meの頃の向こう見ずさは後退してしまっていた・・・幸いなことにと言うか、恥ずかしながらと言うか、ファースト・アルバムは未聴なので、近いうちに聴いてみたいと思う。

Rid of Me

Rid of Me

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Island
  • 発売日: 2000/05/25
  • メディア: CD


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