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バリの影絵芝居の音楽 [ガムラン]

一時期、意識してガムラン音楽ばかりを聴いていた時期がある。特殊な事情と目的があり、とにかくガムラン音楽を体の隅々まで染み渡らせようと思い、ありとあらゆる作品をそれこそ文字通り四六時中(仕事中以外は)聴きまくっていた。好きであったことは間違いないのだが、脅迫観念に駆られ聴いていたので、次第に本当に自分がそれを好きなのかどうかも解らなくなってきてしまった。
こういう本末転倒な時期が10年近く続いたが、最近はまあまあ普通の生活に戻ったので、自分が聴いていて気持ちのいい物だけ選んで聴くことが出来るようになった。

何だか辛くなってきた(笑)ので、閑話休題。

バリでは宗教儀礼が執り行われる際、かなりの確率でワヤン・クリが上演される。上演は夜中過ぎまで続くことが多く、ワヤン・クリの上演があった翌日は「昨夜のワヤンは何時までやってたんだ?」と聞くのが挨拶代わりになるほどである。
ワヤン・クリとは簡単に言えば影絵芝居である。切り取った太さ30センチ、長さ2メートル程のバナナの茎を横に置いて台座とし、その両端に垂直に2本の柱を立て、その柱の間いっぱい高さ1メートル程の白い布を張り、これを人形たちの影を投影するスクリーンとする。後方にはランプが設置され、ダラン(人形の使い手兼語り部)は細かい細工の入った牛皮製の人形を布に擦り当てるようにして古代叙事詩の一節などを演じる。実際に見たことのある人なら誰でも感じるように、スクリーン越しにゆらゆらと揺らめくランプの炎、極端にデフォルメされた人形たちの動きはなんとも幻想的である。
そして、この芝居の為の伴奏音楽として最も有名なのが、このグンデル・ワヤンである。これは実に気持ちがいい。朝からゆるゆると聴きっぱなしである。

幻影~バリ影絵芝居

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グンデル・ワヤンの演奏は非常に難しいとされる。俺もバリ滞在中に「お前もやってみろ」と、半ば強引に教えられたこともあるのだが、どうも身体に馴染まずにあっという間に挫折してしまった。楽器の演奏方法自体も難しいのだが、この音楽はたった4台のグンデルという金属製鍵盤打楽器により奏されるものであり、同楽器の全てのパートが集まって初めて一つの旋律が成立するように設計されているのである。合奏音楽と言えば、主にメロディー専門、バック専門、リズム専門と別々の楽器が担当し、分業化するのが当たり前だと思っていると大きな間違いなのである。

さて、俺自身はこの音楽の演奏は出来ないのでこの作品を技術的な観点でどうこう言うことは出来ないが、聴いていてうっとりするような音色、そして演奏であることは間違いない。前述の通り複雑なパートの組み合わせによって成立している音楽なのだが、難しいことを分析的に聴かずしても充分心地よいのだ。まぁ、どんなに立派な音楽理論があったとしても、出た結果がつまらなければ意味はないのだが。
音の印象は、金属製鍵盤打楽器のみで演奏されているということを忘れてしまう程、繊細でリリカルな響き。パングル(バチ)がダウン(鍵盤)に当たった時のアタック音も柔らかく、楽器の響きも充分枯れていて素晴らしい。察するに、鍵盤の角も取れてしまっている程の相当古い楽器を使用しているのではないか。時にしっとりと、ときにかろやかに紡ぎだされる妙なるしらべは、まさに天上の音楽と言うに相応しい。
それぞれの曲についてどうのこうの言える程の知識はないが、あえて一曲だけ。2曲目に収録されているRebongは、有名楽団、Tirta Sariのオリジナル演目、Puspa Mekarの原曲である。このことはPuspa Mekarの作曲者である故アナック・アグン・グデ・マンダラ翁自身も公言しているので間違いない。実際に聴き比べてみると非常に興味深い。

充実した民族音楽の作品群を発表しているノンサッチレーベルからの発売。録音は1969年。かのマデ・グリンダムが演奏者として名前を連ねている。資料的価値も非常に高いものだ。実は、マデ・グリンダムの子息(といっても充分おじさんだが)、ランティル氏の家を訪問した際、「これ、知っているか?」と、このCDを聴かせてくれた。即座に思い出し、「勿論、知っていますとも。私もCDを持っていますよ」と言ったところ、「これと同じものか?」とランティル氏が差し出したCDはなんと日本盤のコピーだった!なんでも日本人の知り合いが持ってきてくれたのだとか・・・商業作品を複製して配布することがいいかどうかは別の問題としても、製品化された伝統音楽の正規品を本家本元が所持していないなんて・・・こういった歴史的、文化的に重要なものは、ちゃんとしかるべき筋を通してしかるべきところにプレス元が還元しなければいけないと思う。色々なことを考えさせられてしまった。


《バリ》幻影~バリ影絵芝居

《バリ》幻影~バリ影絵芝居

  • アーティスト: 民族音楽
  • 出版社/メーカー: Warner Music Japan =music=
  • 発売日: 2008/08/06
  • メディア: CD


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コメント 2

かな

ご無沙汰して居ります。以前あるBBSで大変お世話になりました。今日ネットサーフィンしていて、このブログに辿り着きました。これからもどうぞよろしくお願い致します。グンデル・ワヤンは大好きですので、さっそく"Bali - Music for the Shadow Play "というCDを注文してみました。もしかするとlaguさんご紹介のCDと内容が異なるのかもしれませんが、amazonのジャケットの写真が素敵だったので、つい…。いま思えば、その写真はワヤン・クリと関係ありませんでしたが…(汗)。
by かな (2006-08-10 23:38) 

lagu

かなさん、こんにちは。お久しぶりですね。かなさんが注文されたCDはモノクロームの写真のジャケットですよね?それでしたら内容は同じだと思います。
最近は本業が忙しくてネット活動はほとんど休止状態で、このブログもあまり更新していませんが、これからもよろしくお願いします。
by lagu (2006-08-12 15:32) 

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