SSブログ

First Strike Still Deadly / Testament [HM/HR]

80年代終盤から90年代初頭にかけて、好んでThrash Metalを聴いていた時期があった。それまでのHeavy Metalのスピード感を極度にデフォルメした過激なアプローチに俺は夢中になり、レコードやCDを買い漁った(丁度音楽メディアの主流がレコードからCDに移行する時期であった)。

が、当時、Thrash Metalの最重要バンドと目されていたMetallicaが『ジョニーは戦場に行った』のオマージュ、Oneでグラミー賞を受賞した1990年あたりから様子がおかしくなってきた。当のMetallicaはマーケット拡大を狙ったのか、それまでの音楽的に過激な部分、即ちスピード感を殺した非常に聴き易いアルバム(通称ブラックアルバム)を発表し、昔からのファンを失望させた。これだけならよかったのだが、なぜかこれら一連の出来事とシンクロするように、ほぼ時期を同じくして次々と有望なバンド達から中心メンバーが辞めて行った。ニューヨーク・スラッシュの雄、Anthraxからは説得力のある有能なボーカリスト、Joey Belladonnaが、Overkillからは熱いギターをかき鳴らしていたBobby Gustafsonが、ドイツのThrashを代表するDestructionからは鬼畜系金切り声ボーカルのSchmierがそれぞれ脱退。そしてそれぞれのバンドのメンバーチェンジ後の作品が(個人的には)ことごとく駄作に感じられ、また、丁度この時期にMy Bloody ValentineのLovelessに出会うという個人的大事件があり、俺の興味は急速にShoegazerに傾いていき、それ以降、全くThrash作品を購入することは無くなってしまった。


あれから20年。ふと思った。「あのころ俺が好きだったバンドはどうなったんだろう?」


ネットで検索してみたところ、やはり解散したバンド、様々な連中が出たり入ったりして今やオリジナルメンバーが一人もいないバンド、追跡不能になっているバンドも相当あったが、それでも当時有望株だったバンドの多くは中心メンバーを残し、メジャー・レーベルとの契約は失いながらも地道に頑張っているようだった。

中でも、ベイ・エリアの重要バンド、Testamentが現在でもほとんどメンバーを入れ替えずに、一時脱退していたメンバーも戻ってきて活動している、という事には驚かされた。個人的にはこのバンドはExodusと並んでお気に入りで、レコード、CDは4〜5枚購入して好んで聴いていた。そのTestamentが、俺が最もよく聴いていた初期の2枚、即ち、LegacyとThe New Orderからの選曲でセルフ・リメイク・アルバムを発売していたってことを10年間知らずにいたって事実に気がついたら、もうこれは聴くっきゃないでしょ。

First Strike Still Deadly / Testament

fsd.jpg


この作品、前述の通り、セルフ・リメイクである。メンバーはドラム以外は変わっていないようだ。リード・ギタリストのAlex Skolnickは一時脱退し、ジャズに転向していたらしいが、このアルバム製作の為に戻ってきたらしい。あのギタリストはリード・ギターをメロディアスに弾きたい願望が顕著に表れていて、当時から曲の流れを削ぐような展開の進行をバンドに強要していたようなので俺としてはどうでもいいのだが(笑)、まぁ、ザクザクのベイエリア・クランチ丸出しのリズムギターに、Thrashにしてはかなりメロディアスな速弾きギターが乗り、ただのダミ声ではない迫力のあるボーカルが喉を全開にして吠えまくるのがTestamentの『ウリ』なのであって、ある意味、他のバンドとの差別化が出来る個性でもあったことは認めざるを得ない。肝心のこのアルバムの選曲も、ドラマー以外は一回レコーディングした曲ばかりであり、条件は充分に整っているのだからして、これがつまらないなら止めちまえ、というところなのだが・・・






うおおおおおお、これはすげぇんじゃねぇか?


デビュー当時の勢いに任せたアンサンブルは適度に整理されているにもかかわらず、デビュー当時と比較しても遜色の無い勢いのアグレッシブにしてヴァイオレントな真性スラッシュ・メタルの爆裂。録音技術の向上のおかげで重量感が増しており、期待以上の音圧。勿論、スピード感も衰えていない。これは『熱い』ぞ。

相変わらず、Alex Skolnickはペラペラとリード・ギターを弾いているが、それよりもEric Ptersonのリズム・ギターの頑固一徹さには改めて恐れ入った。圧倒的な存在感で禁欲的にザクザクと刻むぶっとい音のベイエリア・クランチは職人芸の域に達している。バンドのリズム感、スピード感はEric Ptersonのギターによるところが大きいと思われる。

どうやらこのアルバム、当時、難病を煩っていたボーカルのChuck Billyが休業に入る前に、バンドの歴史が終わる可能性を考え、記念碑的に製作されたらしい。まぁ、幸いにも手術の結果、病気を克服、現在でも活動しているようなので、感傷的な聴き方をする理由もないのであるが、Chuck Billyも療養生活に入る不安を感じさせないような喉全開の全身全霊ダミ声シャウトを聴かせている。勿論、その破壊力は、様式美(ヘナチョコ)ヘビメタバンド連中が『ウリ』にする流麗なハイトーン・シャウトとは比べるまでもない。はははは。

一曲だけ、聴いた事の無い曲が収録されているが、この曲でボーカルを担当しているのは、どうやらバンド結成当時に在籍し、後にExodusに移籍したSteve Souzaのようだ。この事から察するに、多分、バンド発足当時のレパートリーなのだろう。

ごちゃごちゃとまとまりの無いことを書いたが、Testamentの初期2作品を聴いているスラッシャーは、ぜーったいに聴くべきである。俺自身、若干の猜疑心を払拭出来ないまま購入したが、飽きる事無く一気に聴き通したのみならず、この作品の発表を10年間も知らなかったことを後悔した。

ちょっと調べてみたところ、近年、Exodusもデビュー作であるBonded By Bloodをフル・リメイク、DestructionもSchmierが復帰し、過去作品をベスト選曲してリメイクしているらしい。MetallicaもRide The Lightningあたりをセルフ・リメイクしてみて欲しいものだ。最近、大御所Lou Reedと製作したジョイント・アルバムを発表したらしいが、根性があるならいい位置に納まってないで昔みたいにとんがってみせろ、などと思う。



First Strike Still Deadly

First Strike Still Deadly

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Prosthetic Records
  • 発売日: 2008/03/18
  • メディア: CD




元ネタとなったアルバムはこっち。これらも素晴らしい。


Legacy

Legacy

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Megaforce / Wea
  • 発売日: 1999/07/28
  • メディア: CD



New Order

New Order

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Megaforce / Wea
  • 発売日: 1999/03/16
  • メディア: CD



 
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

PARANOID / BLACK SABBATH (祝!再結成) [HM/HR]

2011年11月11日、ゾロ目の日にBlack Sabbathがオリジナルメンバーで再結成するという仰天ニュース。今回は以前のような記念碑的ライブの為の一時的な再結成ではなく、新作を作成するためのパーマネントな再結成らしい。なんでもっと早めに決断しなかったんだ。2006年6月6日ならもっとよかったのに。


思い起こせばフロントマン、Ozzy Osbourne脱退後のBlack Sabbathは迷走を続けていた。Ozzy脱退直後の大穴を埋めたRonie James Dio在籍時代は「Black Sabbathは生まれ変わって別のバンドになった。これはこれでありかも…」と思えたが、そのRonieもたった2作で脱退。その後はIan GillanやGlenn Hughes、Tony Martin、Ronieまでもが入れ替わり立ち替わり出たり入ったりを繰り返し、ドラマー、ベーシストも不安定な状態が続いていた。
メンバーが固定しないだけならまだよかったが、実質、Tony IommiのバンドとなったBlack Sabbathは、アプローチをその都度柔軟に変化させて来た結果、圧倒的個性を持っていた『バンド固有の音』が曖昧になってしまい、なんともおぞましきことに、現在のところスタジオ最新作となるForbiddenなるアルバムではラッパーとも競演しているらしい。

Forbidden(禁断)って、全くそのとおりだよ。ぽっと出のミクスチャーなバンドじゃあるまいし、何も大英帝国のロック界に君臨すべきBlack Sabbathがラップに歩み寄る必要なんぞねぇじゃねぇか。Mr.Darknessの名前が泣くぜ。(勿論、なかったことにして黙殺している)

と、厳しいことを言ったが、Tony Iommiも辛かったんだろうなぁ。どんどんと下降線をたどるバンドの状況を肌で感じ、ここでやめたら次が無くなってしまう、とにかくどんな形でもいいから作品は作り続けなきゃ、期が熟すのを待つのだ、って思いがあって、長年にわたり孤軍奮闘してきたんだと思う。そしてその甲斐があり、オリジナルのメンバーが再度集結し、新しい作品作りに入れたってわけだ。なんだか俺まで胸があつくなるぜ。


と、いうわけで、久しぶりに聴いてしまった。


PARANOID / BLACK SABBATH

black sabbath pr のコピー.jpg

1970年発表、Black Sabbathの2作目にしてその評価を不動の物とした記念碑的作品。まぁ、80年代以降の迷走は置いておくとして、少なくともこの作品がBlack Sabbathの「ダークでヘヴィな」イメージを決定的にした、と言っても過言ではないと思う。

その音はと言えば、必要以上に叫ばないOzzy Osbourneのボーカルは唯一無二の存在感。時としてギターさえも上回る自由度で弾きまくるGeezer Butlerのベースと効果的にフィルを入れるBill Wardのドラムによる鉄壁のリズム隊、ぶっとい音で計算し尽くされた堅牢なフレージングを冷静に実践するTony Iommiのギター。これらが共鳴しあっていい具合の音圧になり、30年以上前の作品であるにも関らず、素晴らしいオリジナリティ。

そしてこの奇跡的なメンバーのコンビネーションから紡ぎだされる曲は、表題作にしてBlack Sabbathの代表曲、Paranoidを始め、痛烈な反戦歌War Pigs、ロック史上最も簡潔で最もヘヴィなリフのIron Man、ワウを効果的に使ったElectric Funeral、見事な構成力で聴かせるHand Of Doom等、収録されている8曲中、5曲までがロック史上に残る名曲。

この珠玉の名曲中、俺が最も好きなのはWar Pigsである。前述の通り反戦メッセージを表に出しているが、ヒッピー的ラヴ・アンド・ピースなお気楽な反戦ソングなどであろうはずもなく、社会構造の批判を含んだ内容であり、政治家や制服組の軍人を徹底的に糾弾する。この曲は実に多くのバンドがカバーし、作品化している。そして、それらの出来は大抵カッコよい(笑)。これは楽曲自体の完成度が非常に高く、また、そのメッセージ性の強さから「大好きな曲だからどうしても演りたい!でも原曲を極端に歪曲するとバチが当たる。ヘタするとファンを失いかねない…」と、慎重になるためだろう。中にはギター・ソロまでほぼ完全にコピーしてスタジオ作品に収録し、ライブでも実践するのみならずライブ盤に収録しているバンドもあったりする。



特筆すべきは、重複するが、Tony Iommiの考え抜かれた堅牢なリフ、そしてソロ。この時代のギタリストはレコーディングとステージを分けて考えている場合が多く、「ギター・ソロはインプロビゼーション」とばかりに、ステージでは自らの作品で弾いたソロのフレージングを完全無視して思いつきで弾く傾向が多々見受けられた。これはギター少年だった俺たちには非常に辛いことだった。頑張ってコピーした思い入れのあるギター・ソロを本人が弾いているところを見たくて来日公演に足を運んでいるにも関らず、当の本人がそれを実践してくれないのである。「これはキメのフレーズだから絶対にレコード通り弾いてくれるだろう」と、思ったフレーズでさえ完全スルーされることもままあり、「あんた、小節数や合図で演奏しとるんかい?俺が必死こいてコピーしたギター・ソロはあんたにとって何だったんだ?」と、何度肩すかしをくらったことか。まぁ、「ソロに入ったらあとは流れで」(笑)って感じでやってたんだろうな。

しかし、Tony Iommiのソロは違う。多少の遊びの余地は残しているようだが、多くの曲のソロのフレージングはスタジオ盤であろうとライブ盤であろうとほとんど変わらないのだ。これは、作曲時点で試行錯誤を重ね、いかに効果的なフレージングを熟慮したかを如実に示すものだ。


それにしても、Heavy Metalの礎を築いた還暦を過ぎたオヤジ達が33年ぶりに集まっての新作、どんな音になるんだろう。興味津々である。発表にあわせてワールド・ツアーもやるのかな?


頼むからあまり無理なスケジュールは組まないでね。ね?



Paranoid

Paranoid

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Warner Bros / Wea
  • 発売日: 1987/07/07
  • メディア: CD


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

Rock Until You Drop / Raven [HM/HR]

1981年発表、NWOBHMの一端を担っていた英国の(当たり前か)ヘヴィ・メタル・バンド、RAVENのデビュー作。発売当時、知人に借りて聴いたのだが、「なんだかうるさすぎてわかんねぇ」と、そのままになっていた。が、久しぶり(30年ぶりか?)に聴く機会に恵まれたのだが・・・

おいおいおいおい、これ、ちょっと面白いんじゃねぇか?


Rock Until You Drop / Raven

raven rock until you drop.jpg

ギター、ベース兼ボーカル、ドラムの最小限の編成で突っ走りまくる。英国のメタルバンドにありがちな湿り気を帯びた表現、大げさな曲展開もなし。最終曲の冒頭1分程度、バラード調のイントロがあるが、それも一転してスピードチューンに早変わり。一曲だけ、アコースティックギターとフレットレスベースのインストゥルメンタルがあるが、まぁ、アルバムのバリエーションとして許してやろう(笑)。

そのスピードから一般には「RAVENはスラッシュメタルの元祖」とする風潮もある。事実、スラッシュメタルのバンドから敬愛されていたり、RAVENの曲をカバーしているスラッシュバンドもある。

が、RAVENの演奏する曲は驚く程速いわけではない。いや、勿論速い。速いことは間違いないが、アンサンブルに独特のタイム感があり、絶えず前のめりの落ち着きのない演奏がスピード感に拍車をかけているのだ。編曲はそれなりに練られていて、ブレイクや展開部で各楽器がちょっとした小技を繰り出すが、決まったのか決まらなかったのか解らないくらいリズムが突っ込んで行くのだ。さらにのべつまくなしに騒ぎまくるベース兼ボーカリストの超高音シャウト。もう狂騒的。制御不能。面白くて面白くて、この一週間程、ほぼ毎日のように聴いている。

オリジナル曲も面白いが、中でも痛快なのはSWEETの有名曲、HELLRAISERとACTIONのメドレーだ。



カバー曲なのに原曲より完成度が劣るってどういうことよ?(笑)しかし、原曲に対する熱い愛情がはじけとび、どえらい勢いで疾走する。カッコええ。展開部でちょっとツボから外れたアレンジを行っているところもあるが、そんなことどーでもいーのであーる。走れ、叫べ、掻きむしれ、ぶっ倒れろ、血まみれで立ち上がってまた走れ!


NWOBHMムーブメントが完全に去り、残るべきバンドはIRON MAIDENやAC/DCのようにビッグになり、生き残れなかったバンドはPLAYING MANTISやDIAMOND HEADのように一部が「伝説」となったが、RAVENはそのどちらにもならず、驚くべき事に現在でも現役で定期的にアルバムも発表しているらしい。メンバーもドラムが交代しただけで、ベース兼ボーカル、およびギターの2名は不動のようだ。多分、結構地元では人気者で、クラブで毎週末演奏したりしてんだろうなぁ。

観に行ってみてぇ。ビールかっくらって叫びてぇ。





ロック・アンティル・ユー・ドロップ(紙ジャケット仕様)

ロック・アンティル・ユー・ドロップ(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: USMジャパン
  • 発売日: 2009/02/18
  • メディア: CD



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

Condition Green(70年代、ぶっ飛び沖縄ハードロック) [HM/HR]

前回、事故で一ヶ月ベッドから動けず、FENを聴き続けていた、ということを書いて思い出した。


70年代、沖縄のロック・シーンにすんげぇバンドが居た。

Condition Green





と、このブログの書き方だとここでジャケット写真を出し、楽曲についてあれこれ青臭い薀蓄を垂れるのが普通なのであるが、今回はなしである。
なぜなら、現在只今俺自身がCondition Greenの音楽作品を所持しておらず、カセットのコピーすらどこに行ったか解らず、聴きなおすことが出来ないからだ。

が、幸いにも俺がCondition Greenの凄さを知るきっかけになった映像をYou Tubeで発見!

とにかく、これを見よ。







曲はおなじみ、Boney Moronie、原曲は誰だか忘れたが、快調に豪快に飛ばしまくる。もう制御不能。いい意味で常軌を逸している。もちろん、事前の打ち合わせはあった筈だが、いつ事故が起こっても不思議ではない。無鉄砲にも程がある。


つーか、鉄砲、持ってんのか。「ロック・スピリット」っていう、高速連射砲クラスのどでかいのを。



この映像は高校生の頃にテレビの深夜番組で見た。確か、某服飾メーカー提供の番組の為に、本拠地、沖縄以外の場所で開催されたコンサートの模様だったと記憶している。

いやぁ、これを見たときはぶっ飛んだ。無茶苦茶熱いRock'n'Roll魂、日本人離れしたセンス、ノリ、タイム感。バカバカしくも極上のエンターティメントだ。客のノリがイマイチなのは当時の「本土」のロック・シーンの枠からかなりはみ出していたせいだと思われる。と、いうより、度肝を抜かれてどう反応していいのか解らない、ってのが正しいのかもしれない。

が、これらの過剰な演出、そして選曲には特殊な事情があるのだ。当時頻繁にCondition Greenのライブに足を運んでいた沖縄出身の友人が語っていたことを思い出す。

当時の客は殆どが駐留米兵達。彼らにとっての沖縄とはFar East、即ち地球の東の端だ。いわば最果ての地、最前線だ。いつ召集がかかってもおかしくない緊張状態に長期間置かれている。血気盛んな若い荒くれどもはストレス発散のためにクラブのライブに集結する。が当然、アルコールや何やらで尋常な状態ではない。騒ぎたいのだ。発散したいのだ。彼らが欲しているのは誰もが知っている(広義での)ロックン・ロールだ。迂闊に悪いタイミングでバンドのオリジナル曲でも演奏しようものならビール瓶が飛んでくる。そこでバンドも有名曲を主なレパートリーにすることになる。彼らだって子供の頃からFar East Networkで散々海外のハード・ロックを聴き続けているのだ。リクエストに対応する準備は万端だ。

こうして、70年代の沖縄のライブ・ハウス、米軍キャンプ敷地内のクラブで演奏するバンドは、過酷な環境で腕とセンスを磨き、海外の有名バンドの曲をレパートリーにしていったのだそうだ。

つまり、需要側のニーズが限定されており、供給側にそれに答える素地があり、素晴らしいHard Rockを演奏するバンドが生まれ、育っていった、というわけだ。


因みに、友人曰く、「カッチャン(ボーカリスト)は生きた鶏の首をステージ上で噛み切っていた」、曰く、「シンキ(ギタリスト)はカッチャンに髪の毛を摑まれてステージ上でぐるぐる回され、客席に放り込まれたが、それでもリズムを乱すことなくリフを弾き続けていた」、曰く、「ある日、カッチャンが斧をステージから投げた。その斧はライブ・ハウスの最後列で見ていた俺のすぐ横の壁に刺さった。危ないところだった」そうである。


俺、その場に居たかったような、居なくてよかったような。

 
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

CAPTAIN BEYOND [HM/HR]

以前、70年代に「スーパー・グループ」と言われたバンドを続けざまに取り上げたことがあった。多分、このグループもスーパー・グループの定義に合致すると思うのだが。

俺がハード・ロックに目覚めた中学生の頃、年上の従兄弟から「Deep Purpleが好きだって?だったらこれも知っておかなきゃ」と、聴かされたアルバム。これはブリティッシュ・ハードロックの隠れた名盤…と、言って良いのかどうか…

CAPTAIN BEYOND

captain beyond.jpg

1972年発表、Deep Purpleのオリジナル・メンバーだったボーカリスト、Rod Evansが結成したCaptain Beyondのデビュー・アルバム。勿論、バンドの中心人物、Rod Evansはイギリス人だが、ドラム、ギター、ベースはアメリカ人、しかし曲想やアプローチの仕方はどう聴いてもブリティッシュなんだよなぁ…

音の方はその時代なりの硬質なハード・ロックなのだが、変拍子を多用した大作主義(とは言っても短い曲を繋げただけであるが)が見え隠れする。この為か、一部のコアなプログレ信者の間では半ば伝説的なバンドである。

では、プログレらしい超絶技巧で攻めてくるか、と言えば、それはちょっと違う。アメリカのサイケデリック・ロックの有名バンド、Iron Buterflyに在籍していたギタリストとベーシストのプレイは、頑張って工夫した跡こそ聴きとれるものの、いま一つ突き抜けていない感は否めない。「試行錯誤しながらリフを作り、ソロも綿密に組み立ててきました!これが精一杯です!」って雰囲気が濃厚に漂い、自由自在に楽器を操っているという印象はない。小手先の器用さに溺れていない分、ある意味、真面目な演奏とも言えるのだが、残念ながらその真面目さが音の平坦さに現れてしまっている。
また、本来スターたるべきRod Evansのボーカルも歌唱力不足が露呈してしまっている。これを補うつもりかいたるところで不自然なエフェクター処理をしており、これがまたのっぺり感に拍車をかけている。本人達は工夫したつもりだったのだろうが…が、逆に、やたら展開し、ギターの音色も曲によってめまぐるしく変わるにもかかわらずあまり盛り上がらない醒めた雰囲気が独特の味わいになっており、不思議な魅力がある、とも言えるのだが…
しかし、ここにタイム感抜群の達人、Bobby Caldwellの叩き出すぐいぐいとドライブするドラムが加わることにより、バンドの音は飛躍的なダイナミズムを獲得することに成功している。この作品におけるBobby Caldwellの貢献度は非常に高い、と言うか、Bobby Caldwellによってバンド・サウンドが支えられている、と言っても過言ではない。

俺自身は結構好きな音で、現在でもたまに聴く。ちょっとひねくれたプログレ風味のドライブ感のある70年代ハード・ロックはなかなか魅力的だが、残念ながら商業的には大きな成功は得られなかったようだ。ほどなくしてBobby Caldwellが脱退、セカンド・アルバム製作後にはフロントマンたるべきRod Evansも脱退。その後サード・アルバム制作時には一時的にBobby Caldwellが復帰するもバンドの勢いの衰えは隠しようも無く、なし崩し的に解散。

そもそも、この作品が発表された1972年といえば、Rod Evansが解雇されたDeep Purpleは名盤Machine Headを発表した年だ。さらにプログレ方面ではYesがはこれまた名盤、Close To The Edgeを、EL&PはTrilogyを発表した年に当たっており、いささか出遅れた感も免れない。さらに翌年にはQueenAerosmithなどの次世代の大物達がデビュー。時代背景を考えると、Captain Beyondの出る幕はなかったのかもしれない。

と、いいつつも、前述の通り非常に真面目に創られた作品であり、70年代ロックが好きで不幸にもまだ聴いていない者は是非聴いてほしい内容である。


後にCaptain Beyondを脱退したRod Evansは、悪徳プロモーターにそそのかされ、かつて在籍していたDeep Purpleの名前を名乗り、アメリカ各地のクラブをロード(巡業)してしまったらしい(バンドはプロモーターが用意した、という説もある)。

実は、当時のDeep Purpleは日本での人気ぶりを考えると意外なくらいアメリカでは認知度が低くかったそうで、ヒット曲と言えばRod Evans在籍時のデビュー・シングル、Hushくらいだったので、プロモーターは、「Rod Evans本人がHushを歌っていればまぁいいだろ」とでも思ったのだろうか?これだけならよかったのだが(よくねーよ!)、なんと本人が脱退後のDeep Purpleの曲もステージでやっていたらしい。勿論、この暴挙は本家Deep Purpleの知るところとなり、裁判沙汰に発展、結果は当然Rod Evans側の負け。Deep Purple在籍時に発表した作品の著作権料すら受け取る権利を放棄させられてしまったようだ。

Rod Evansをそそのかしたプロモーターは当然断罪されてしかるべきだが、Rod Evansもバカな事をしたものだ。唯一のヒット曲(それですら他人のカバー曲だが)の著作権さえ手放す事になってしまったのだから。

『貧すれば鈍する』とはまさにこのことか…



Captain Beyond

Captain Beyond

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Capricorn
  • 発売日: 1997/08/19
  • メディア: CD



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽