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Tales From Topographic Oceans / YES (R.I.P Chris Squire) [Progressive]

もう一ヶ月近く前になるが。

Chris Squireが亡くなった。

いわずもがな、Progressive Rockの最重要バンドの一つであるYESの唯一のオリジナルメンバーであり、70年代中盤以降、頻繁なメンバー変更、脱退したメンバーの再加入、再脱退が行われる中、一度も脱退せずにYesの看板を守り続けていた、いわばYesの屋台骨だ。その彼が亡くなったというニュースに接した時、正直、「嘘だろ?」と思った。ほどなく、「何らかの形でここでも取り上げなければ」と思ったものの、なかなかどの作品を取り上げるべきか動機が見つからず、とんでもない時間が経ってしまった。


で、昨日思い出した。

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40年程前のある日。学校から帰ると友人から借りていたレコードを誰かが大音量で聴いていた。俺はてっきり年子の弟が聴いているものだと早合点し、「あいつ、断りもなく勝手にかけやがって。傷でもつけたらどうするつもりだ」と、ステレオがあるオヤジの書斎に鼻息も荒く踏み込んだところ、あにはからんや、聴いていたのはオヤジだった。俺に気がつくと向き直って、「おう、これ、なかなかいいな」と一言。普段はクラシックや映画音楽を愛好していた当時40代後半のオヤジが、ビートルズもストーンズもすっ飛ばしていきなりこんな作品に理解を示すとは予想だにしていなかった。

これがその作品。


Tales From Topographic Oceans / Yes

yes tfto.jpg

Yesの6作目のスタジオ作品、邦題は「海洋地形学の物語」

発表はYessongsと同じ1973年、Roger Deanによるジャッケットも美麗な2枚組(作品発表当時)、4面あるLPの片面全てが1曲、合計4曲からなる超大作。そしてその4曲中3曲までもが同じくLPの片面を占めていた名曲、Close To The Edgeより長い!(厳密に言えば、Close To The Edgeはいくつかの楽章から成り立っているが、シームレスに収録されているし、楽章毎に切り分けて聴いている者なぞ居ないであろう)

この構成から、当然、ファンはClose To The Edgeの様な見事な構築美の楽曲を密度の濃い演奏でぶちかました名演が4面にびっしりと詰まっているものだと過剰な期待をした。


が、そりゃ、無茶ってもんです。だいたい、あんなハイテンションな演奏、1曲20分として合計80分、続けて聴けますか?(笑)


この作品、「冗長な駄作」だの、「癒し系のプログレ」だの、「実験的作品」だの、果ては「ここからYESの迷走が始まった」だのと、とにかく評価がまちまちで、あまり好意的な意見を聞いた覚えがないが、俺に言わせれば、時間をかけてじっくりと聴かせ、最後に最良の結果を出すべく綿密な戦略のもとに作品作りに取り組んだ一大叙事詩だ。ま、前年に発表したClose To The Edgeが成功したからこそ出来た冒険であることは間違いないと思うが。

そもそもこの作品、1973年にClose To The Edge Tourの一環で来日した際、Jon Andersonが読んでいたヒンズー教の教典にインスピレーションを受け、Steve Howeと構想をまとめた、という逸話は有名であり、この事からも容易に察することが出来るように、エピキュリアン的発想から離れたところに基本構想が立脚しているわけであるからして、多少難解なのは当然なのだ。

収録されているのは、哲学的かつ静謐な印象のThe Revealing Science Of God、牧歌的な雰囲気が魅力的なThe Remembering、トライバルなアプローチが意表をつくThe Ancient、そしてスケール感のでかいRitualの全4曲。それぞれの曲は、厳密に楽章こそ区切られていないものの、曲が進行するにつれ様々な表情を見せる。にも関わらず、その印象は他の曲と明確に区別できるだけの独立性を保っている。これは各楽曲のコンセプトがしっかりしているからこそ実現可能な技だろう。つまり、ミュージシャンの自己顕示欲より作品全体の収まり具合を優先しているのだからして、部分的には多少地味な印象を与えるつくりになってしまうのは致し方無いのだ。

が、そこは曲者の彼ら、要所ではミュージシャンシップの高さを見せつけている。特に作品作りの中心にいたSteve Howeは様々な弦楽器を駆使し、ほぼ全編にわたって活躍しているし、この作品からスタジオに入ったAllan Whiteも、安定した重厚なドラミングで複雑なアンサンブルにしっかり貢献している。また、最終曲、RitualにおけるChris Squireの存在感は圧倒的。特に中盤以降、アルバムが大団円に向かって突き進んで行く高揚感を作り出しているのは間違いなくChrisのベースソロだ。

総じてこのアルバム、部分だけを取り出しても本当の魅力は見えてこない、と思う。時間が充分ある時に、合計80分を通して聴けば、「なるほど。そうか」と、腑に落ちるはずだ。Progressive Rockのファンで、発売当時に好意的に受け止められなかった人は、今一度、じっくりとアルバム全体を俯瞰的に鑑賞してみることをお勧めする。

それでも、どうしても一曲だけ、となると・・・う〜ん、やはり躍動感あふれる序盤から開放感のある中盤に自然に繋がり、たおやかなベースソロから一転、唐突に展開した後、ひとしきりの混沌から冷静さを取り戻し、静かに収束していく終盤、と、構成が見事なRitualかな。って、今、聴きながら記していて気がついたが、このRitualって、結構な名曲かも。


それにしても、唯一のオリジナルメンバーを失ってしまったYesは今後どうなっていくのだろう?療養の為に事前にChrisの不参加が決定していた今年のツアーは代役をたてて乗り切るようだがその後は?と、オフィシャルページを見たら、なんと来年のツアーのスケジュールが発表されていた。それも、アルバム、FragileとDoramaの再現ツアーのようだ。
アルバムとしてのFragileを再現するってことは当然、The Fishも演奏せざるを得なくなる訳だが、いったいどうなんだろ?そもそもFishってのはChrisのニックネームだったわけだし、Fragileでは主にベースの多重録音で出来上がっていたあの曲は、ライブ盤、Yessongsにおいては重ねられていたフレーズを個別に提示しながらアドリブを入れて行く、という手法で、絶大な効果を上げていたが、あれをChiris以外のミュージシャンが演奏するなんて考えられない・・・

R.I.P



海洋地形学の物語

海洋地形学の物語

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2010/05/26
  • メディア: CD



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