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GAMELAN SEMAR PEGULINGAN from the village of Ketewel [ガムラン]

俺は桜の時期になると、ビクターから発売されている、Guunung Jatiの『耽美と陶酔のガムラン』を聴き続けることは、ここでも、他所でも、発言機会のあるところではどこでもと言っていい程に毎年のように繰り返している。
昨日も近所の公園で桜を愛でながらiPodで『耽美と陶酔のガムラン』を聴き、至福の時を過ごした。が、一枚聞き終わってしまい、「ちょっと、他のも聴いてみるか」と、気まぐれで選んだのがこれ。

MUSIC OF BALI / GAMELAN SEMAR PEGULINGAN from the village of Ketewel

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そう、解る人にはわかる。儀礼の際に奉納される舞踊として、秘密のベールに包まれた希少で神聖な存在である、Topeng Legongの演奏を行う楽団の録音である。発売元はアメリカの会社だが、レコーディングはバリ人が行っているようだ。

恥ずかしながら、俺はこの楽団の生演奏を観たことは無い。いや、聴いたことはある。俺が参加していた楽団がKetewelの寺院で執り行われている儀式で演奏する機会があり、出向いた際に寺院のどこからかこの楽器の音色が響いてきた。俺はこの目で確かめたく寺院内の探索に行こうとしたのだが、すぐに俺たちの出番が来てしまい、結局、俺たちの演奏が終わる頃にはKetewelのSemar Pegulinganの楽団の演奏も終わってしまっていたのだ。
(注:祭礼の際、同じ敷地内で複数の楽団が別の演目を同時進行で演奏を行うのはバリでは普通のことである)

それはさておきこのCD、スリーブに綴じ込んだ6ページに渡る解説書もあり、なかなか良心的。ただし、やはり2ページはステレオタイプなバリのガムランにまつわる総論が記されており、これについては改めて読む価値は無い。しかし、残り4ページについては、Ketewelの音楽・舞踊文化の成り立ち、周辺環境や、使用している楽器の特徴等についても(多少の間違いがあるものの)細かく解説するという、かなりまともな創りをしており、学術的な資料価値もある。

肝心の内容だが、録音はお世辞にもいいとは言えない。まず、臨場感がない。各楽器のバランスも悪い。
いや、正確に言えば、ガムランは20台程度の楽器一揃いで一つの楽器ともみなせるので、音の分離は価値基準から外すべきなのだが、それでも特定楽器の音が耳についたりするのはマイクのセッティング・ミス、もしくはミックス・ダウン(していればの話だが)段階でバランスの取り方に問題があった、もしくはミキサーにガムランの理解度が足りなかったせいだ、としか思えない。
まぁ、世の中には聞くに堪えないような劣悪な音質のガムラン作品も、現地インドネシア盤は勿論、海外盤にも多々あるので、比較論で論ずれば聴くに耐えない、という程ではないし、これらの不満は圧倒的に素晴らしい品質の日本盤のガムランのCDを聞き慣れているからそう思うだけなのかもしれない。

そうそう、で、肝心の演奏内容。特に超人的な技を披露している訳ではない。が、要所では音量の変化、緩急を織り交ぜた演出を行っているが、奇をてらうような威圧的な音がほとんどなく、結果的に実直に淡々と演奏しているな、という印象を受ける。金属製鍵盤打楽器が中心のアンサンブルであるにも関らず、耳にキンキンくるような耳障りな音は聞かれない。俺はこの『ポロス』な感じは素晴らしい、と思うが、抑揚の少なさに不満を感じる人もいるやもしれない。しかし、これはSemar Pegulinganという楽器群の音響的特徴、歴史的成り立ち、隆盛を極めた後に辿った生き残りの道を考えれば当然だし、これがあるべき姿なのだと思う。

そして、この音がまたなんつーか舞い散る桜の風景になんとマッチすることか。来年からはこのCDも花見のバック・ミュージックの常連に仲間入りだ。

唯一残念なのは、最後に収録されているLegong Lasemが完全版ではないところ。いや、短縮版ですらなく、いきなり冒頭部分を10分程度飛ばして、曲の途中から収録されていることだ。CDの総演奏時間は60分に満たないので、いくらでも収録出来た筈なのに。なんでこんな作りにしたのか、まったくもって謎である。
が、一つの可能性に気がついた。この作品が録音された1986年といえば、バリで発売されている音楽作品は60分収録のカセットが主流の時代だ。そして、録音者を見ると、バリ人が仕切っているようだ。もしかしたら、現地でカセットでの発売の可能性を考慮に入れ、片面30分ギリギリに納まるような収録をしたのではないだろうか?
このことに思い当たり、収録時間を計算してみたら、収録されている5曲中、1曲目〜3曲目の合算値が28分程度、残り2曲の合算値も28分程度。
 

まちがいねーな。


 

Music of Bali

Music of Bali

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Lyrichord Discs Inc.
  • 発売日: 1991/09/23
  • メディア: CD






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コメント 10

石原茂和

これですかーー
http://www.emusic.com/listen/#/album/gamelan-semara-pegulingan/music-of-bali/10865670/:
by 石原茂和 (2012-04-25 11:11) 

石原茂和

偶然ながら,僕もこのまえ,桜をみにいく(not いわゆる花見,見るだけ)..への道すがら,耽美と陶酔の..をかけていきました.はまりすぎ.
by 石原茂和 (2012-04-25 11:13) 

石原茂和

アルバムの後半,タムのような音の,皮はった小太鼓の音(左側にいる)がうまく隙間に割り込んできて,ロック的あるいはSteve Reichの好きそうなパターンに聴こえて,意外でした.
耽美と陶酔の..が,僕の知っている,ガムランてこういうもんだろ,という感じでしたが,こちらは僕にとっては知らなかった新感覚です.

一糸乱れぬ,なのにつっこみ気味だったり,もどったり,間の取り方もとても高度ですね.(そこもロックぽいのかな)



by 石原茂和 (2012-04-25 12:18) 

lagu

そう、KetewelのSemar Pegulingan、emusicでも取り扱っているそれです。
「耽美と陶酔のガムラン」は、桜の時期は最強無敵(笑)。特に散り際のはらはらと桜が舞い散る光景にぴったりですよね。
by lagu (2012-04-25 17:01) 

lagu

太鼓(クンダン)がアンサンブルの隙間に巧く入り込んできている、との話ですが、実は、それがガムランにとって(一部例外はあるものの)普通なのです。
通常、ガムランの楽器は2台で一組になっており、相手が演奏していない隙間をぬって違うパターンをねじ込み、アンサンブルが完成するように設計されているのです。
そう、ご指摘の通り、Steve Reichの一部作品のリズムの考え方に似ている、というより、Steve Reichが影響を受けているのは間違いないと思います。
「耽美と陶酔〜」の場合、楽器からマイクの設置位置までが比較的距離があるか、もしくは2名の太鼓奏者が近い位置にポジショニングしていたため、解りにくいのかもしれません。
by lagu (2012-04-25 17:10) 

石原茂和

桜の季節,僕はなぜか,ガムランとアルバート・アイラーとピンクフロイドの1stを良く聴きます.

クンダン..
http://saisaibatake.ame-zaiku.com/gakki/gakki_jiten_kendang.html
ああ!これですね.見たことあります.たしかに,いますね.
そうですか,では,この盤は録音のせいで,よく目立っているのかもしれませんね.ほかの録音も,クルマで大音響で聴いてみます.
by 石原茂和 (2012-04-26 09:00) 

lagu

あ、このタイプはジャワのクンダンです。バリのクンダンは胴体部分に膨らみが無く、ストレートなんですよね。また、音色も左右の個体によって変えています。一本の木から削りだすんですが、内部の削り方が違うんですよね。
それにしてもPiper At The Gates Of Dawn、ですか。実は私も大好きです。
by lagu (2012-04-26 16:11) 

石原茂和

おっと,これは失礼を.
音色が違うのを複数つかうってことでしょうか.

Piper at .. サイケ感ってどこから生まれるんだろう,とタブ譜をいろいろ見たのですが,ちょっとギタリストでないとほんとのことはわからんなあ,と断念気味です. だれか分析本を書いてくれないかなあ
by 石原茂和 (2012-04-26 23:03) 

lagu

その通り。音色の違うクンダンが2台で1組になっており、同時に異なったパターンを演奏します。
『夜明けの口笛吹き』、このブログでも何回か取り上げようとしたのですが、断念しています。あの作品の魅力って、言葉で説明出来ないんですよね。
by lagu (2012-04-27 09:35) 

石原茂和

やっぱりそうですか.

Piper at.. は,一冊で1アルバムを取り上げる,33+1/3シリーズで出てますね.
http://www.amazon.com/Floyds-Piper-Gates-Thirty-Three/dp/0826414974/ref=sr_1_8?ie=UTF8&qid=1335572948&sr=8-8

だけど,Look Inside!で見られる範囲では,ドキュメンタリー的なのか,音楽の分析的なのかはわからず..多分前者では..
前者だけでもおもしろいとは思いますが..
あの言葉遊びセンスぐらいはわかるかもしれません
by 石原茂和 (2012-04-28 09:32) 

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