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GUNUNG SARIの器楽曲、舞踊曲集 [ガムラン]

さぁて、いよいよGUNUNG SARIの真骨頂、前回取り上げたルランバタン集と同時期に収録されたとみられる、ゴン・クビャールの器楽曲、舞踊曲集である。

THE BEST OF GONG KEBYAR / GUNUNG SARI

gunung sari legong.jpg

いやぁ、ベタなネーミングな作品だなぁ。他所でも触れたことがあるが、インドネシア版の音楽作品にはやたらとTHE BEST OF なんたらかんたら、というものが多く、さらにジャケットには他の文字情報も満載で、どこまでを作品名として紹介したらいいのか判断できない。この作品のジャケットにも、GAMELAN & DANCEという文字がある。当然、ご他聞に漏れずPELIATAN UBUDと地名も表記されており、更には通常裏ジャケに記載されることが多い収録曲まで番号付きで網羅されているのにはまいった。なんつーか、デザイン・マインドが感じられないんだよなぁ…

しかし、収録内容は確かにTHE BEST OF GONG KEBYARの名前に恥じない。


この作品はセミ・クラシカルなゴン・クビャールの器楽曲、舞踊曲で構成されている。嬉しいのはアルバム前半に配置されている充実した器楽曲の数々。カピ・ラジャ、ウジャン・マス、ガンバン・スリン、スカール・ジュプンと、全てが名曲にして名演。まさにプリアタンの楽団らしい選曲である。
舞踊曲に関しては、勿論、GUNUNG SARIが本家のオレッグ・タムリリンガンがばっちり収録されており、これがこの作品集の白眉と言っていいだろう。複雑な曲展開、美しいメロディ、ダイナミックな緩急、コテカン(番いリズム奏法)の紡ぎだす音の網目模様は正確無比。「目にも留まらぬ」とはまさにこの事であり、GUNUNG SARIの本領発揮と言えよう。また、クビャール・トロンポンでの演奏も非常にチャーミングだ。特に中盤以降の「ノリ」と収束部分に近づくにつれ「巻き」が入り、演奏が熱気を帯びてくる様は見事。個人的には乱暴にもRock'n'Rollのノリに近いものを感じる。この曲で乗れると気持ちいいんだから。ほんとに。
あえて言うなら、レゴンが収録されていないのが不満と言えば不満だが、これは同時期に録音、発売されたTIRTA SARIの器楽曲、舞踊曲集と収録内容をダブらせないように発売元が配慮した結果だろう。


さて、GUNUNG SARIの成り立ち、楽器の音色、表現の特色については前回も触れたので、ここでは省略するが、あるプナブ(音楽家)からGUNUNG SARIの楽器について面白い話を聞いた。なんでも、GUNUNG SARIの鍵盤楽器は強く叩いたからといって大きい音が出るわけではなく、叩く強さの加減が非常に難しいのだそうである。(なんでも彼はオダランの際にGUNUNG SARIの楽器を使用した経験があるらしい)

科学的にはその理由はいくらでも解明できそうだが、そんなことをしても意味がない。注目すべきはゴン・クビャールという大規模なアンサンブルにおいて、演奏という操作が難しい楽器を使用していながら、素晴らしい音の粒立ち、ダイナミックな強弱のニュアンスが実現できているという事実である。特定の楽器の音が突出、または聴こえなかったりして、アンサンブルがバランスを崩さないように音楽監督が細部に渡って注意を払った結果であろう。

俺の記憶が正しければ、この作品と前回取り上げた作品以降、GUNUNG SARIは少なくともインドネシア国内では作品を発表していないはずだ。もう10年以上前の録音であり、メンバーの相当数のみならず、音楽監督すら代わっている。俺としては、そろそろ器楽曲、舞踊曲を中心にした新作品の発表を望みたいところだが、もし実現したとしても、収録内容は過去に発表している作品群とさほど変わらないものになるだろうことは容易に察しがつく。

が、過去作品と収録内容がダブろうが、そんなことはどうでもいいのである。曲が古かろうが、新曲が含まれていなかろうが、そんなことに文句をつける者なぞいないだろう。GUNUNG SARIに必要なのは、そして求められているのはダイナミックな変革なんぞではない。何よりも重要なのは、ゴン・クビャールの老舗、GUNUNG SARIがバリ芸能の中心と言われるプリアタンの伝統を守り続け、現在も第一線で活動している、ということなのだから。


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