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GUNUNG SARIのルランバタン [ガムラン]

さて、前回のバリ滞在中に必要に迫られ、聴いて聴いて聴き倒したGUNUNG SARIのルランバタン集を改めて聴いてみた。(その経緯はこちらこちら、そしてこちらを参照されたい)

TABUH LELAMBATAN KLASIK / GUNUNG SARI

gunung sari llm.jpg

ルランバタンとは曲の形式である。バリのヒンズー寺院等でオダラン(寺院の起源祭)等が行われる際には必ずと言って良いほどこの形式の曲が演奏される。が、それらは観賞用音楽としてではなく、儀礼の場の環境形成の為に奏されるのが普通である。で、あるからして、これらの曲を積極的に聴こうとする参列者はまずいない。

GUNUNG SARIは歴史的観点から見ても非常に重要な楽団である。バリの芸能音楽の黎明期をリードした故マンダラ翁が創設した楽団であり、1930年代にバリの楽団として初めて海外公演を行ったのもGUNUNG SARIである。当然、リーダーを含め、楽団員は何世代も交代しているが、50年以上前に残された歴史的録音と現在の演奏を比較しても驚くほど音の雰囲気が変わっていない。

そもそもバリにおける「楽団」とは、個人所有の楽器を持ち寄った音楽家の集まりではなく、「楽器一揃い」とほぼ同義語であり、アンサンブルの中心となる全ての金属製鍵盤打楽器は同じ音律で鋳造、調律されているため、おのずと楽団独自のカラーが決まってくるのは不思議ではないのだが、GUNUNG SARIの場合は「伝統の継承」に対するリーダー、楽団員の意識がよほど徹底されているのだろう。俺も縁あって2年ほど前からGUNUNG SARIの演奏活動に参加させてもらっているが、「GUNUNG SARIが長い歴史の中で培ってきた表現を汚すようなことがあってはならない」と、演奏するたびにかなり緊張する。

GUNUNG SARIの魅力は、何と言っても音色の煌びやかさであろう。聴き手によっては「可愛い音」と表現する者もいる。これは、調律が一般の楽団に比べて極端に高いせいだ、と思っている者も多いようだが、これは間違っている。実際に他の楽団と比較してみるとわかるのだが、むしろ調律は低い部類に属する。「音色」と「音程」は全く別のものなのである。
もう一つの大きな魅力はそのスピード感であろう。以前にも言及したが、必要以上に情感に訴えかけない「突っ込む」ようなアンサンブルは、音の立ち上がりの良さと相乗効果を醸し出し、素晴らしい疾走感を生む。
実際の演奏スピードも相当なものだが、それ以上に重要な要素は曲のスピードが緩から急へ、急から緩へと移行するときのアンサンブルの速度感である。曲の細部にわたって細心の制御が行き渡り、それが際立っている。多くのガムラン愛好者は「一糸乱れぬアンサンブル」と言う表現を使うが、まさにその通りである。


さて、肝心のこの作品だが、儀礼の際に演奏される、長大な3曲と短い1曲で構成されている。特に注目すべきは冒頭の超有名曲、Galang Kanginであろう。この曲は多くの楽団が演奏し、作品化もされている。今回、この作品を取り上げるに当たって、複数の楽団が演奏している同曲と聴き比べてみたが、ただ単に古典曲を淡々と演奏しているだけではなく、やはりGUNUNG SARI流の味付け、すなわち緩急のつけ方等、GUNUNG SARIの楽器特有の音響的特徴を際立たせるような工夫が施されている事には驚いた。この一曲だけの為にもこの作品を聴く価値はある。
ちなみに、最後に収録されているGilakという小品は、通常儀礼の際には最初に奏されることが多く、同時発売されたカセットの媒体収録限界時間である60分に近づけるための、いわば「帳尻あわせ」のためのものだろう。どうせなら最初に収録してほしかった。

収録、発売はおそらく1996、もしくは1997年。同時期に演奏会用の器楽曲、舞踊曲を収録した作品も発売されている。ほぼ同じタイミングでTIRTA SARIも儀礼用を含む器楽曲のみを収録した作品、舞踊曲を中心に収録した作品の2枚を発表している。察するに、発売元が「プリアタンの有名楽団の演奏をまとめて収録したい」というプロジェクトを立ち上げて録音した中の一枚と思われる。

プリアタン村の地元楽団としてのGUNUNG SARIが、それこそ数え切れないくらい儀礼で演奏してきた曲が収録されており、自分の知る限り、こういった企画の録音はプリアタンの他の楽団には無い。資料的な価値は非常に高いし、定期公演ではまず演奏されないような曲ばかりで構成されており、GUNUNG SARIの隠れた魅力を知るには絶好の作品、と言える。

蛇足ではあるが、現在、GUNUNG SARIの音楽監督に就任しているチョ・アリ氏は、プリアタンに伝わる古典的なルランバタンの数々が廃れる前に全て録音して後世に残したい、と言っている。大規模なマイクセッティングは不要、ワン・ポイントで充分だ、録音したデータをレコード会社に持ち込み、作品化したい、とのこと。

誰か、やってくれませんか?

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