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Close To The Edge / YES [Progressive]

以前もここにしたためたような気もするが、俺が中学生の頃はLPの値段が¥2,500前後だった。当時の俺の小遣いは確か¥3,000くらい。どう頑張っても月に一枚購入するのが限度である。ロックが好きな同級生達も同じような状況下にあり、自然とLPの貸し借りが一般化していたが、中には貸したレコードをいつまで経っても返さない奴もいて、けっこうイライラさせられることも多かった。

「おい、あのレコード、そろそろ返せよ」
「わりいわりい。勉強が忙しくてまだ全部聴いてなくてさぁ」
「・・・(嘘つけ)」

で、数日後。

「おい、早く返せよ」
「わりいわりい。返そうと思って玄関まで持ってきたんだけど忘れちゃったんだ」
「本当かよ?(嘘つけ・・・)」

さらに数日後。

「おい、早く返せ」
「ああ、あれは××君に貸した」
「おい、俺はお前に貸したんだぞ?お前が取り戻して返せ」

そして数日後。

「ほら、返すよ。あんまりしつこく『返せ返せ』って言うと嫌われるぞ」
「なに言いやがるこの…」

しかして数ヵ月ぶりに俺の手元に戻ってきたレコードはジャケットは破れ、ライナーノーツは折りたたまれ、盤面は傷だらけの無残な姿に・・・


んが~っ!気に入ってたのに~!


これもそんな憂き目に遭ったレコードである。

Close To The Edge / Yes

yes cte.jpg

発表は1972年、俺が始めて買ったYESのLPにして、シンフォニック系プログレッシブ・ロックの頂点に位置する作品である。

前作の作品の寄せ集め的印象が強かったFragileとはうって変わり、この作品はいわゆるコンセプト・アルバムである。収録されている3曲はいずれも素晴らしいが、中でも組曲形式の表題曲、Close To The Edgeの素晴らしさにはただ圧倒されるのみであった。

かすかに聞こえる川のせせらぎ、鳥の鳴き声でアルバムは幕を開ける。程なくシンセサイザーの効果音が被さり、それらを突き破るかのようにテンションの高いフリーキーなギター・ソロが炸裂する。当時は「歌の前にギター・ソロ?」と、驚愕したものだ。そして唐突なブレークに意表をつくコーラスが何回か繰り返される。しばらくの後に曲の主題らしきものが素晴らしい開放感を持って奏される。これらが一段落するとようやくボーカルが主導権を取り始めるが、バックの演奏も様々な工夫を凝らし、単なる歌のバックに回るようなことはなく、考え抜かれた実に見事なアンサンブルを聴かせる。協奏曲風の短い転換部分に続いて曲は静謐な表情をみせる。ささやくような歌、オブリガートを入れるコーラス。これらが盛り上がりを見せると、荘厳なパイプ・オルガンの独奏。曲は収束部へ引き継がれる。再び主題の変奏が奏でられ、それらはいつの間にかテンションの高いオルガン・ソロに取って代わり、最後は躍動感あふれる収束部分に一気になだれ込む。後に残るのは再びかすかに聞こえる川のせせらぎ、鳥の鳴き声…

完璧な構成。

LP時代にはB面に収録されていた2曲もアルバムの表題曲、Close To The Edgeと比較すると若干小ぶりであるが、それぞれに魅力的である、And You And Iは結果を急ぎすぎている局面も見て取れるが、牧歌的な雰囲気が非常にチャーミング。最終曲、Siberian KhatruはYES流のRock'n'Rollといったところであろう。息をもつかせぬテンションの高い演奏が様々な表情を見せながらもスピード感を落とす事無く9分間を駆け抜けていくさまは圧巻である。

作品を横断的に見れば、過度にエフェクターに頼らないSteve Howeの奏する不思議にもカントリー・テイストを漂わせるセミ・アコースティック・ギター、そして下品の一歩手前で踏みとどまっているChris Sqireの輪郭のはっきりしたワイルドなベース、バカテクとまでは言わないが空間的広がりを意識しつつも要所ではハモンド・オルガンを使用し、ジャジーで熱いプレイを聴かせるRick Wakemanのキーボード、軽めの音質ながらも曲を逸脱しない範囲内で小技を繰り出すBill Brufordのドラム、繊細な印象のJon Andersonのボーカル、そして見事なコーラス、これらが奇跡的な融合を見せ、唯一にして無二な音声空間を作り上げている。これらの要素のどれかが抜けてもこの作品は成立しない。もし、もっとテクニックのある者が特定のパートを演奏したとしてもこの雰囲気は生まれなかったであろう。まさに、ミュージシャン・シップの高い演奏家達が起こした奇跡というにふさわしい。

ちなみに、最近、この作品がデジタル・リマスターされ、ボーナス・トラックで付加価値をつけて発売されているが、デジタル・リマスターはさておくとしても、資料的価値があろうがなんだろうが、ボーナス・トラックは大きなお世話である。せっかくのコンセプト・アルバムの流れがボーナス・トラックのせいで滅茶苦茶になっている。と、言うわけで、俺はiPodにはボーナス・トラックは食わせていない。


この後、YESは何回かメンバー・チェンジを繰り返すが、なんと主要メンバーであるギタリストのSteve Howeも脱退。80年代には、一般に広く受け入れられるひっじょーに解りやすい安易な音処理(オーケストラ・ヒット)を施したOwner Of A Lonely Heartを含む、90125という、大傑作にして昔からのファンを裏切る大駄作を発表。懸案のOwner Of A Lonely Heartはシングルカットされ、大ヒットしたが、他の曲がどんなにテクニック的に見事であろうと、この一曲で全て帳消しである。

なによりもディストーション・ギターが支配的なYESなんか認められるか。どんなに有能であろうと、バンドが積み上げてきた音楽文化とでも言うべきものをを無視し、YESをポップ・バンドとして扱ったTrevor Rabinの罪は限りなく重い(笑)。

Close to the Edge

Close to the Edge

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: WEA Japan
  • 発売日: 2003/08/25
  • メディア: CD



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コメント 3

石原茂和

私も,Yesの1枚といえば,これになりますね.
Chris Squireのコーラスも,重要な要因の1つに
入れてやってください.

トレバー有罪ですか.
まあ,あのときは,すくなくともAndersonとSquireは
モダンポップがやってみたかったんだと思いますよ.

最近のライブをテレビで見たのですが,今でもSteve Howeは,エフェクターをあまり使っていませんね.ギターそのものは使い分けるけど.ギター職人だなあ.
by 石原茂和 (2009-03-11 11:20) 

lagu

Chris Sqireのコーラスは私も評価に値する、と思っています。あ、あと、ルックスね。(笑)お行儀のよさそうなメンバーの中で、唯一、ロッカーらしい「毒気」と「華やかさ」を備えていた、と思います。

で、やっぱりトレバー・ラヴィンは有罪です。
Owner Of A Lonely Heartを聴いて初めてYESに興味を持ったリスナーがYESの作品を遡って聴いてファンなったとは思えません。さらに「一過性」と明らかにわかる方向にバンドを向けてしまった。案の定、Big Generatorでは同様のことをやり、コケでしまった。

まぁ、ASIAの件もあるし、そういう時代だったのでしょうね。
by lagu (2009-03-11 12:52) 

石原茂和

おっさんどころか,じいさんの年齢と容貌になった,
現在のYesでも,彼(Chris)はいまだにそうなので
感心します.
昨年末のツアーは,彼が病気でキャンセルになったようで,
大事でないことを祈ります.

トレバー再び有罪,了解.
さかのぼってファンになった人は,確かにほとんどいないでしょうね.一過性の方向は..あのとき,みんなお金が足りなかったのかも.
当時のASIAは.3分や5分に凝縮してポップスにするという点で評価してます.でも,Howeは明らかに物足りなさげ.


by 石原茂和 (2009-03-11 14:04) 

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