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Lazer Guided Melodies / Spiritualized [Rock]

1990年代初頭、当時Thrash Metalを中心に聴いていた俺が、何の事前知識も持たずにMy Bloody ValentineのLovelessに出会って衝撃を受け、いわゆる「酩酊感」のある作品を探していたとき、これまた何の事前知識もなく「ジャケット買い」したのがこの作品である。

Lazer Guided Melodies / Spiritualized

spiritualized l.jpg

Spacemen 3のメンバー、Jason Pierceが作ったバンドのデビュー・アルバム。

俺の予想とは異なり、Lovelessのような轟音の中に美しいメロディーが見え隠れするような作品ではなかったが、「酩酊感」のみならず「浮遊感」をも兼ね備えており、お気に入りの一枚となった。

全体を横断的に見ると、コードが劇的に展開する曲は少ない。普通だと単調になりがちな曲が多いのだが、様々な装飾的フレーズが曲のイメージを破壊しない程度にひそやかに配置されており、これが有効なアクセントとなって聴いていて飽きることがない。
また、演奏も実に真面目。単純なフレーズの繰り返しが多いのだが、集中力をとぎらせることなく、また、遊びすぎる事無く演奏に取り組んでいる姿勢には非常に好感が持てる。唯一、ベーシストは比較的自由に弾いているが、これがまた実にツボにはまっているのである。ギター・ソロらしきものも何箇所か聴かれるのだが、テクニックを誇示することもなく、必要最低限の効果的なフレーズを慎重に配置していっている。囁くようなボーカルも感情を爆発させることはない。アルバムの隅々まで細心の制御がいきわたったアンサンブル。かといって硬い印象はなく、演奏者の自由裁量に任されたフリーキーな部分はほぼ皆無であるにも関わらず、全体的にサイケな印象。ほぼ全ての音に楽曲中の必然性があり、演奏者は自分の出す音に責任を持って演奏に臨んでいる。実に見事である。

音響的なポイントはかなり深くかけられたリバーブであろう。「ちょっとやり過ぎか?」という印象も受けるが、数曲で聴かれるエッジの立ったディストーション・ギターの音もリバーブにより粒立ちを保ちながら柔らかめの印象となり、結果的にこの音響処理は成功している。

Runなる曲は明らかにVervet Undergroundへのオマージュであろう。非常にほほえましい。唯一、浮遊系シンセサイザー音が全編を支配しているSymphony Spaceというインストゥルメンタルは作曲という行為の跡が希薄で、機材に頼りすぎている感も受けるが、宇宙空間に放り出され、浮遊しているようなイメージは(って、実際にそんなことになったら大変であるが)なかなかに魅力的である。アルバムの最後を飾る200 Barsは淡々とした演奏が4分弱続き、若干の盛り上がりを見せあっけなく終わる。「え?これでおしまい?」と思わせる作りで、気がつくとリピートしてしまう。

注意深く聴けば、部分的にはPink FloydAsh Ra Tempelを想起させられる箇所もある。いずれもサイケデリック・ロック黎明期のパイオニアであり、彼らに何らかの形で触発されているか、もしくはリスペクトしていることは容易に察しがつくが、それらはSpiritualized流に上手く咀嚼され、曲中にしっくりと溶け込んでおり、違和感は全く感じさせない。また、後のSigur Rosに繋がっていく要素も聴いて取れる。多分、Sigur Rosのメンバーもこの作品を愛聴したのではないだろうか?


これは、誠実に作りこまれた、軽い酩酊感、浮遊感を感じることのできるサイケデリック・ロックの傑作である。発表から15年以上経過した現在でも充分鑑賞に値する。是非、一聴をお勧めする。


Spiritualizedはこの作品発表後、しばらくの後にLadies And Gentlemen We Are Floating in Spaceという、実に説明的なタイトルの佳作を発表、その後はソウル・ミュージックへの歩み寄りを見せていく。これはこれで魅力的ではあるのだが、俺自身はやはりこのLazer Guided Melodiesが一番好きである。



Lazer Guided Melodies

Lazer Guided Melodies

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: RCA/Dedicated
  • 発売日: 1996/10/29
  • メディア: CD



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コメント 6

石原茂和

>演奏者の自由裁量に任されたフリーキーな部分はほぼ皆無であるにも関わらず、全体的にサイケな印象。ほぼ全ての音に楽曲中の必然性があり、演奏者は自分の出す音に責任を持って演奏に望んでいる。実に見事である

なるほど,さすが現場の強者らしい的確な表現,
まいりました.


by 石原茂和 (2009-03-08 18:46) 

lagu

コメントで引用していた部分の本文に手を加えてしまいました。誤字があったもので…
すいません。
by lagu (2009-03-09 09:23) 

石原茂和

iTMSで買って聴いてみました.
私は,Spiritualizedは,Ladies and Gentlemen..からだったもので.
確かに,これは,セッションをダラダラ録音ではない(それも面白いのがいろいろありますが),きっちり作曲,演奏したサイケデリックなロックの名盤の一つですね
Ladies and Gentlemen..は,“おい,そんなに全面攻撃してくるなよ”と当時思いました.これは,いい塩梅にSpecemen 3での音響実験と,わずかにゴスペル趣味と(これはそのあと比重が強くなりますが),若者らしい内省的なつぶやき感のブレンドがとてもいい.
名盤同意.
今頃の,春になりはじめにぴったりですね.
by 石原茂和 (2009-03-11 11:39) 

石原茂和

ちなみに,当時は,Ladies and Gentlemen..よりも,
God Speed You Black EmperorとSiguor Rósのほうが
気にいっていました.
ポストロックで暗黒なのはないのか,という志向でしたので.
そのあとは,Mogwai.
ああ,ずいぶん昔のことになってしまった..


by 石原茂和 (2009-03-11 11:42) 

lagu

ああ、Mogwaiね。近いうちに…あ、そういえば2回も取りあげてたわい。(笑)
by lagu (2009-03-11 13:18) 

石原茂和

そうですね.もう書いておられますね.

この前言及した,
An evening of contemporary sitar music
は,このアルバムのSwayの歌無しライブです.
ただ,ギターがシタールギターになっているので
ずいぶん感触がちがいます
by 石原茂和 (2009-03-11 13:55) 

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