HEROES / David Bowie [Rock]
と、いうわけで、HEROESである。
前作、LOWでは「Brian Enoの言いなり(笑）になったのでは？」とファンを心配させたBowieであったが、『ベルリン三部作』の二作目となるこの作品では、Enoの影響を色濃く反映しながらも、本来のBowieらしさも見せており、さらに新境地も開拓している。これは、間違いなく大名盤。
HEROES / DAVID BOWIE
アルバムは鬼気迫る緊張感を持った佳曲、Beauty And The Beastで幕を開ける。ピアノの単調なフレーズにRobert Frippの怪しげなギターのフレーズが絡み付き、Bowieのうなりとも取れる声と共に演奏は徐々に盛り上がりを見せる。タイトなリズム、綿密に創りこまれたアレンジ。
そう、Brian Enoのみならず、なんとRobert Frippまでこのアルバムに参加しているのである。
これは無敵だ。
表題曲、Heroesであるが･･･とにかく、素晴らしい。いつ聴いても、どこで聴いても、素晴らしい。発表から30年経過した現在でもその輝きは全く失われていない、普遍的な美しさと力に満ちた名曲だ。なんでも崩壊前のベルリンの壁の前で愛を語り合う恋人に着想を得て作詞されたらしい。決して明るい内容とはいえないのだが、暗雲の中から一条の光が差し込むような雰囲気を感じさせる、若者を鼓舞するのに充分なイメージ。開放感と歓喜に満ちた演奏はBowieのじわじわと盛り上げいく歌唱とあいまって神々しくすらある。
総じて、前半(LP時代のA面）はそれまでのBowieにはない雄々しさ、力強さを感じさせる。Robert Frippにサポートされたことも大きいと思うが、それ以上に低音での歌唱方法を若干変えてきたこと、何より肝心の曲が良い事がプラスに作用しているせいだと思われる。
さて、問題の後半、LP時代のB面にあたる曲群であるが、ここでの手法は前作LOWを思わせるものだ。最終曲、The Secret Life Of Arabiaを除き、ボーカルは聴かれない。しかし、3曲に渡る、Sense Of Doubt、Moss Garden、Neuklonの一連の繋がりは素晴らしいの一言に尽きる。
ここで特に注目したいのは、西芳寺（苔寺）の庭園にインスパイアされ、作曲されたというMoss Gardenである。これは掛け値なしに素晴らしい。遠くから聞える鐘の音を感じさせる音響、鳥のかすかな囀り、Bowieの演奏するおもちゃの琴の音は若干安直ではあるが、演奏全体にすんなりと調和しており、違和感は感じさせない。静かに流れ込む水をたたえた池を中央に配置し、暖かな木漏れ日にところどころ照らされた苔に包まれた庭園の佇まいをそのまま音に移したかのような素晴らしい曲である。実際に西芳寺の庭園を見たことのある人なら、人種を問わず、「ああ、これだ」と、納得し、例外なくあの庭園の美しさを思い出すことだろう。ここまで日本的情景を日本人が聴いても不自然さを感じさせない音として具現化させたBowieとEnoは天才としか言いようがない。心から敬服する。
ところで、なんでもDavid Bowieは京都を痛く気に入っているそうで、別荘を所持しており、折を見ては訪れているようである。先斗町あたりでばったり、なんてことにならないだろうか？
蛇足であるが、表題曲、Heroesでロング・サスティーンのギターを弾いているのはRobert Frippだと思われるが、通常の弾き方ではこんなサスティーンは生まれない。音程を変えてもコンスタントに音が伸びているところを察するに、これはフィード・バックではなく、E-Bowという特殊な演奏ツールを使っていると思われる。このE-Bowという演奏ツールはピッキング無しで金属製の弦を無限に振動させ続けるという、不思議な道具である。俺は使ったことはないが、なんでもアコースティック・ギターでも同様に延々と持続音を出せるらしい。その形状からは内部構造は解らないが、察するに、電気磁石を微細なタイミングでオン/オフを繰り返す仕組みになっているのではないだろうか？
ちなみにRobert Frippはこの曲を相当気に入っているようで、自らが主催するKing Crimsonでも演奏し、その模様はライブ盤として残されている。
- アーティスト: David Bowie
- 出版社/メーカー: Virgin
- 発売日: 1999/09/28
- メディア: CD
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