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ANGEL(時代の徒花) [HM/HR]

70年代中盤、なんとも奇妙なバンドが出現した。メンバーのほとんどは(概ね)美形、美しく整ったロング・ヘアー、純白のコスチュームに身を包みむというまるで少女漫画のキャラそのもののいでたちで、キーボードを大胆にフューチャーしたスケール感の大きなハード・ロックを聴かせた。

ロック少年達は「もしかしたら第二のQUEENか?」と、ちらと思ったが、ロック好きの婦女子たちはそのルックスゆえに熱狂し、男子達はその勢いに取り残されてしまった。その結果、『ANGELが好き』と公言することははばかられるようになったその実、ロック少年達は「ちくしょう、あいつらあんなにモテやがって。俺もあんなにちやほやされてみてえ~」などと悶々としたのである。

ANGEL

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 とにかく、このバンドを語るとき、ルックスを度外視することはまかりならない。あそこまで『華麗さ』を演出するのには、本人たちも相当覚悟が必要だったと思う。特にキーボードのGreg Giuffria、ギターのPunky Meadowsの人気は突出しており、婦女子の熱い視線をほぼ独占していた。恥ずかしい話だが、実は俺自身もPunky Meadowsに憧れていた時期があり、髪を伸ばし、白いロンドンブーツを履き、原宿あたりを徘徊していたものだ。しかし、あのスフィンクスを彷彿とさせる髪型に近づけるには物凄い労力が必要で、ドライヤーとスプレーを駆使し、1時間位鏡の前で格闘せねばならなかった。今となっては消し去ってしまいたい過去である・・・(因みに、Punky Meadows本人はステージ前のメイク・アップに2時間かけていたそうである・・・)

このバンドについては以上である。それ以上はあまりない(笑)。

と、いいつつ、それではあんまりなので、少々。

一曲目のTowerはバンドのデビュー・アルバムの幕開けを飾るにふさわしい、スケール感の大きな良質なハード・ロックだ。当時は斬新だったシンセの効果音、空間的広がりを与えたストリングス系のキーボードは特徴的だ。実は、俺はこの曲だけの為にCDを購入し直した(我ながらアホだと思う)。ただ、正直言ってしまえば、テクノロジーが発達した現在の価値基準で聴いてしまうと音響的には突出したものはないし、アイデアもURIAH HEEPからの借用、との印象を免れない。
アルバム全体を通してみれば、ハードなナンバーあり、バラードあり、と、バラエティに富んだ構成。残念ながら『傑作!』と言えるような曲はないが、程ほどにいい曲もある。技術的にはさほど巧くはないものの、決定的な欠陥は見当たらない。

俺自身は気持ちの持って行き方次第によって、今でもそれなりに楽しく聴くことも可能だが(それでもアルバムを通して聴くことは出来ない)、正直言えば、リアル・タイムで経験した者しかその面白さは解らないと思う。つまり、この音楽を気持ちよく聴くためには『思い出の補完』が必要である。これは即ち、残念ながら音だけでは今の世の中には通用しない、ということに他ならない。まぁ、これはこのバンドに限ったことではなく、大きな成功を納めずして消えていったバンド共通の特徴である。
冷静に考えてみれば、現在は影も形も無い30年以上前のアイドル・バンドの曲がエバー・グリーンであろう筈もなく、逆に当時から現在でも通用するような音楽をやっていたとしたら現在でも何らかの形でシーンに生き残っている筈だ。が、残念なことに当時のメンバーが現在も一線で活躍している、という話も聞かないし、バンド自体の再評価の兆しもない。

それにしても、このバンドの衣装や髪型のビジュアル面、そして演奏する音楽のコンセプトはいったい誰が決めたのか?バンドの自主的な意思か?それともプロダクションの打ち出した方向性がそうさせたのか?もし、後者だったとしたら、割り切れないメンバーもいたことだろう。

 

あえて言う。ロックが巨大な産業として成立するようになって以降のロック・ビジネスの世界は嘘だらけである。特に新人バンドがデビューする際に芸能プロダクションが広報するプロフィールは宣伝用に都合よく操作されることも珍しくなく、年齢を含め、全てを信用することは出来ない。なにせ『音楽』という名前の『夢』を売るのが商売なのである。『夢』に実体は無い。実体のないものを売り、『夢』を供給するためなら『嘘も方便』である。 ヘタすると、バンドの人事にまでプロダクションが口を出すこともある。衣装、音楽性については何をかいわんやである。もっと極端な例では、大きなプロダクションはデビュー前のバンドをいくつも抱えていて、そこから有能な(色々な意味で)メンバーだけをピック・アップし、新しいバンドを組ませるようなことすらする場合がある。人選に漏れたメンバーはそのままお払い箱、もしくは次に声がかかるのを延々と待つのである。一聴すると酷い話のように聞えるが、まぁ、ロック・スターになりたい連中はわんさかいるので、プロダクションは囲い込み資源に困ることはないし、需要(プロダクションがデビューさせたいミュージシャン)と供給(デビューしたいミュージシャン)のバランスは最初から取れていないので、プロダクションのある意味不誠実なやりかたを糾弾しても状況は変わりようも無い。ミュージシャンにとっては茨の道だが、プロダクションのこういった努力(彼らだって遊びでやっているわけではない。ビジネスなのである)もあり、我々一般のリスナーは一定のレベルに達した音楽を供給され、それを消費し、夢を得ているわけだ。このANGELというバンドも成り立ちを含め、そういった類のプロダクションの意向を少なからず受け入れてデビューにこぎ付けたのだとしても全く不思議ではない。

まあバンドの成り立ちについてはさておくとしても、デビューしたからには本人たちも覚悟を決めて頑張っていたことだろう。しかしこの頃はすでにQUEEN、KISS、AEROSMITH等の新生代のハード・ロック・バンドは確固たる地位を築いており、いささか出遅れの感があった。来日公演も行ったが、日本側のプロモーションが失敗し、客席はガラガラだったそうで、バンドはツアー途中で帰国してしまう。これが災いしたのか、人気は急降下。その後数枚のアルバムは発表したものの、そのまま消滅してしまったようである。まさに時代の徒花とでも言うべきか・・・

ちなみに、後にキーボードのGreg Giuffriaは自らの名前を冠したGIFFRIAなるバンドを結成するが、採用したギタリストのルックスがPunky Meadowsに似ていたのには驚ろかされた。勿論、未聴である。


Angel

Angel

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: RCA International
  • 発売日: 1994/06/14
  • メディア: CD


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