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LARKS' TONGUES IN ASPIC / KING CRIMSON(計算された偶然) [Progressive]

先日購入した朝日新聞社が発行しているAERAの臨時増刊、AERA IN ROCK 2に、欧米諸国(主に英国)のロックの作品に命名する邦題をめぐっての担当者のこだわりについて書かれていた記事があった。今でこそ英語が世の中に氾濫しているので原題がそのまま出ても違和感は無いが、昔は訳さないとイメージを想起できなかっただろうし、だからといって馬鹿正直に訳しても面白さが伝わらなかっただろうし、色々と大変な苦労があったようだ。
そして、この作品のネーミングにも相当な葛藤があったはずだ。

LARKS' TONGUES IN ASPIC / KING CRIMSON 邦題は「太陽と戦慄」

king crimson ltia.jpg


太陽神信仰のシンボルを思わせるトライバルな雰囲気のジャケット、そしてタイトル曲の持つ脅迫的な雰囲気からこの名前になったんだろう。原題を直訳すると、「毒蛇に飲み込まれた雲雀の舌」ってことになる。もちろん、そういう状況を音楽で表現しているわけじゃない。この原題は、シュール・リアリズムの提唱者、アンドレ・ブルトンの不作為のコラージュによる詩、「こうもり傘とミシンの手術台での出会い」の方法論を踏襲したものだということは容易に想像がつく。早い話が、「偶然が生む取合せの意外性」を狙ったものだ。
そして、この作品上に「偶然が生む取合せの意外性」を求めるとすれば、それは間違いなく、狂気のパーカッション奏者、JAMIE MUIRの自由奔放にして無軌道な演奏だろう。汲めども尽きぬアイデアでバンドの音に様々な味付けを施していく様は見事。
アルバムはのっけからカリンバのソロで始まる。次第に不穏な音が数々と積み重なり、バイオリンの切迫感を煽る単調なフレーズに促されるようにディストーション・ギターがうねり、スネアのロールを合図に一気にヘヴィな演奏に突入する。YESで強いられていたリズムキープの呪縛から解き放たれたドラムのBILL BRUFORDはのびのびと思いつくままに叩きまくっているし、JOHN WETTONのベースは猛烈な勢いでうなっているし、DAVID CROSSのバイオリンはヒステリックに叫び、御大、ROBERT FRIPPのギターは時空が歪まんばかりに壮絶、かつ計算され尽くしたプレイを披露している。そして、JAMIE MUIRはありとあらゆる「音の出るもの」を駆使し、聴き手が思いもよらないような奇想天外な音を次から次へと繰り出し、バンドすら予測していなかっただろうと思うような効果的な味付けを施している。それにしても、いったい誰が「笑い袋」(わかるかなぁ・・・)を楽器に使おうだなんて考え付くものか・・・
はっきり言って「キビしい」音で、聴いていて全く癒されないのだが、発表から30年以上経った今でも全く飽きずに聴ける。間違いなく傑作。また聴こうっと。


太陽と戦慄(紙ジャケット仕様)

太陽と戦慄(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: WHDエンタテインメント
  • 発売日: 2006/02/22
  • メディア: CD

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コメント 7

teamKE

名盤ですよね.
私,この3年ぐらい,現代音楽を中心に聴いていますが,
一つの目的は,これを超える音楽を探すこと.

Chamber Rockの素は,Messiaenの世の終わりのための四重奏曲だったとか,いろいろ発見したのですが,
このアルバムを超えるものには,なかなか出会えません.

Erkki-Sven Tüürという,エストニアの現代音楽家がいますが,
まんまLark's Tonguesみたいな室内楽を書いています.
Architronicsというアルバムですが.
でも,全然Crimsonには勝てず.

このアルバムは,ほとんどインプロで録音されたというのは有名ですが(その前に,Frippのシゴキは相当にあったと思うけど),
インプロが,作曲を超えてしまう瞬間の記録だったのではないでしょうか.

私の友人かつ同僚で,即興音楽界ではかなり有名な原田雅司(Masashi Harada)さんという方がおられるのですが,彼が即興にこだわるわけもわかったような気がしました.
by teamKE (2009-02-21 07:57) 

lagu

teamKEさん、こんにちは。
間違いなく名盤ですね。程よく制御されながら、各プレイヤーに表現の自由が与えられており、奇跡的にそれらが上手くかみ合った稀有な例だと思います。
ちなみに、伝聞ですが、このころのFrippはジャズ専門誌の人気投票でギタリスト部門にランクインしていたとか。
by lagu (2009-02-28 09:09) 

teamKE

ジャズの人にもウケる,わかりますね.
特に初期の3枚は,ジャズロックとも聞こえるところが
ありますから.
そのわりに,Fripp本人はカンタベリーの人たちとあまり交流がなかったのは不思議な気がします.Fripp以外はいろいろやっていますが.



by teamKE (2009-03-03 12:11) 

lagu

teamKEさん、こんにちは。
確かに、Frippがカンタベリー周辺の人たちと作った作品って…記憶にないですね。私はあまりカンタベリーは聴いていないのですが、あの独特のユーモアセンスに相容れないものでもあったのかなぁ?
by lagu (2009-03-03 14:33) 

teamKE

そうですね.
ユーモアセンスが相容れなかったか,
キビしい音楽を
目指していたFrippには,
カンタベリーのもわーんとした
ぬくい感覚が相容れなかったか.

ところで,原田さんのお名前の字を間違えていました.
正しくは原田雅嗣さんです.


by teamKE (2009-03-04 16:07) 

lagu

teamKEさん、こんにちは。
私の中では、カンタベリー派(と、括るのも失礼かもしれませんが)のミュージシャンの多くが表現したかったのは自分の技であって、聴き手のイメージを広げるプレイではないのではないか、と思っています。ま、確かにジャジーでテクニックがありながら、ユルい雰囲気がカンタベリー系の魅力の一つなんでしょうが、聴き手が「歩み寄る」ことを前提にしたカンタベリー系の音は今現在でもあまり好きではありません。

それに引き換え、Frippは自分を追い込んでまで聴き手に与える心理的影響を考えたプレイをすることを第一優先順位に置いていた、と解釈しています。結果、出た音は熱効率の悪い陰惨な場合が多いのですが、それがFrippの目的だったのでしょう。

そのあたりの音楽に対する姿勢の違いがカンタベリー周辺のミュージシャンとの共同作業が見当たらない理由のひとつではないか、と。

逆に、他のミュージシャンがへたくそであろうと、トーキング・ヘッズやフライング・リザーズのレコーディングには参加していたりしますしね。要は、カンタベリー系のミュージシャンとは「肌が合わなかった」ってことなんでしょうね。
by lagu (2009-03-04 20:06) 

teamKE

まとめてしまうと,Fripp御大は,相手がテクニック持っていなくても
気にしない,あるいは場合によっては,かえって相手が素人のほうが本気だしたりするが,ユルいのは我慢できないって人なんでしょうね.

カンタベリーってくくりも広くて,
Henry Cowまでカンタベリーに入れられてしまうことがあるので
一概に言えないのかもしれませんけどね.
Henry Cowは,Crimsonと並ぶUKキビしいバンドだと
私は思っています.
by teamKE (2009-03-04 21:18) 

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