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耽美と陶酔のガムラン / Gunung Jati (至芸は民にあり) [ガムラン]

1990年代初めからバリ島に通っている。仕事の切れ目で長期の休みをとり、場合によっては休職までしていそいそとバリに通う俺を見て、仕事仲間達は呆れながら「またバリに行くんですか?水上コテージでのんびりかぁ・・・いいなぁ」などと言うが、俺は彼らが思っているような優雅なリゾートライフを満喫しているわけではないし、そもそもバリには水上コテージはない。念のため。

俺がバリに通う主たる目的はガムラン音楽だ。バリには民間に非常に濃い密度で伝統音楽が存在する。島内各地の様々な場所(レストラン、ショッピングモール、ホテル、王宮、集会場等々)では観光客向けに民族芸能の興行も開催されており、その質も「なんでこんな凄い音楽をこんなショボいハコでやってんだ?」と驚かされる本気度の高いものから「どうせ観光客にはわからないだろうと思ってんだろうなめんじゃねえぞ」と毒づきたくなるやっつけ仕事まで様々だ。バリは全てが玉石混淆なのだ。

外国人の手によって収録されたガムラン音楽の作品(レコード、CD等)についても同様のことが言える。現地の音楽家との相互理解の上に成立した質の高い内容、録音のものから、観光ついでに行き当たりばったりで収録したと思しきお下劣なものまで様々だ。当然、買ったはいいがあまりにも辛くて最後まで聴くことが出来ず放置するものから、新しく買ったCDをほったらかしにして聴き続けてしまうほど素晴らしいものまで存在する。勿論、後者のような傑作はめったにないのだが・・・

 

耽美と陶酔のガムラン / GUNUNG JATI  これは間違いなく傑作。

  vic gunung jati.jpg

世界に名だたるガムランの名門楽団、GUNUNG JATIの演奏会の模様を収めた歴史的名盤。収録場所はGUNUNG JATIの本拠地、巨大なバニヤン樹のあるタガス・カンギナンの寺院の前庭。一度でもその場所でGUNUNG JATIの演奏を聴いた者は、一生その音声空間の持つ魔力を忘れることは出来ないと口を揃える。幸いにも俺は機会あってその場所で開催された演奏会に招かれるという幸運に恵まれ実際に体験、めでたく囚われ人の仲間入りをした。

民族音楽の現地録音を行う場合、どのように収録すべきかはエンジニアは頭を悩ませるところだろう。音楽のみを収録しようと思ってもどうしても野犬、鳥、虫の鳴き声等々の環境音を拾ってしまう。完全に密閉された状態での演奏会など考えられないバリでは避けられないことなのだ。しかし環境音も音楽を構成する一要素、と割り切ってしまうと、類まれなる奇跡が起こる(場合もある)ことをこのCDは証明している。

バリの濃密(陳腐な表現だな・・・)な夜の雰囲気を想起させられるかすかな虫の鳴き声に混じり、クンダン(両面太鼓)奏者が革の張り具合を確かめる音や聴衆のざわめきが聴こえる。しばらくの後にポロン、ポロンと控えめに紡ぎ出される枯れた音色のスマル・プグリンガンの銘器による妙なる調べ。真に音楽文化の至宝、と言うにふさわしい。動から静へ、緩から急へと変幻する一糸乱れぬその演奏はまさに魔術的。特に古典舞踊曲、レゴン・ラッサムでの火花の散るようなプレイは圧巻だ。曲間の環境音が臨場感をいやがうえにもかきたてる。

ガムランを好きになり始まったころは現代器楽曲一辺倒だった俺を、この作品が古典舞踊曲の素晴らしさに目覚めさせてくれた。これを聞く度にあの悪魔的な夜の感動が蘇る。このCDが俺にとって「一生もんの宝」であることは明白だ。俺はこれからもこの作品を聴き続けるだろう。

耽美と陶酔のガムラン

耽美と陶酔のガムラン

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2000/08/02
  • メディア: CD


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コメント 6

セニ男

こんにちは!ナイス!というよりバグースですか?

今同じCDを聞きながら拝見しました。
なんど聞いてもイイですね!
残念ながら今昼間なので蝉の泣き声が+されて
しまいバリの夜の雰囲気が薄れてしまっています。。

だいぶ前ですが、このCDが録音されたタガスの野外ステージ
をぜひこの目で見たくてタガスをほっつき歩いたのですが
辿り着けなかったことを思い出しました。

コリン・マクフィ著の「熱帯の旅人」に出てきた
あのスマル・プグリンガンをグヌン・ジャティは
使用されているのですよね?
いつの日か野外ステージであの楽器達での
演奏を生で聞いてみたいと思ってます。
by セニ男 (2005-08-15 14:16) 

石原茂和

注文していた,このCDが届きました.
演奏,録音共に最高ですね.

この前,ワンポイントマイクで録ればいいのに,
と素人コメントしたのですが,
そのもののテクニカルな話を
大橋先生が解説に書かれていました.orz



by 石原茂和 (2009-03-10 09:02) 

lagu

お聞きになりましたか。おめでとうございます。
この作品は私が知るガムランのCDの中でも最もお気に入りの一枚です。
先日、この楽団のリーダー格、ランティル氏と演奏を共にする機会があり、(新しく私が加入したグループの指導役をしています)お話をさせていただいたのですが、現在、このグループはあまり良い状態にはないようで残念です。
by lagu (2009-03-10 09:46) 

石原茂和

本業が別にある人たちなので,
なかなか存続自体が難しいのでしょうね.
なんとか,継続的な資金源があればいいのでしょうが,
とても大変そうですね(ビンタンのほうを読ませて頂くと).

観光化もせず維持するといったら,
CDをばんばん出すぐらいしか,手が無いのでしょうか.


by 石原茂和 (2009-03-10 10:25) 

lagu

そうそう、これを聴いてガムランに興味が湧いたら、次は以下の作品を「攻めて」みることをお勧めします。
 
http://gamelan.blog.so-net.ne.jp/2005-12-22-1
 
http://gamelan.blog.so-net.ne.jp/2006-01-25
 
いずれも「厳しい」音ですよ。

by lagu (2009-03-10 10:27) 

石原茂和

ありがとうございます.

注文しますとも.


by 石原茂和 (2009-03-10 13:13) 

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