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Ascension / Jesu [Post Punk / Post Rock]

グラインド・コアおよびデス・メタルの超重要バンド、Napalm Deathの初期メンバーでもあったJustin Broadrickのソロ・プロジェクト最新作。

予め断っておくが、これはグラインド・コアでもデス・メタルでもない。勿論、ブラスト・ビートの曲なぞ収録されていない。

それにしてもバチあたりなプロジェクト名をつけたもんだ。

Ascention / Jesu

Jesu.jpg

アルバムはアコースティックギターの頼りない弾き語りに単調なベース、煮え切らないドラムで幕をあける。だらーんとした投げやりな雰囲気。「いまさらスロー・コアですか?」と思っていると、1分30秒を経過したあたりでとんでもない音圧のエレクトリック・ギターが参入。全ての音をかき消さんばかりにダウン・チューニングしたと思しき解放弦を多用したコードで曲を埋め尽くして行く。若干甘めの音質ながらも低音弦の経過音を活かした強烈なコード・ワークは爆音と言うにふさわしい。圧巻、というより、正気を疑ってしまう程の偏ったミックス・ダウン。

アルバム全編を通して聴いてもギターソロらしきものは無い。印象的なリフも無い。コード展開はそれなりに練られているが、展開部で気の利いた小技を繰り出すこともなく、ある意味禁欲的に爆音を配置していく。ベース、ドラム、曲によって聴かれるキーボードもかなり簡潔で、全ての曲、全てのパートにおいてこのアルバムに収録されている曲を演奏するのに特別なテクニックは必要ないと思われる。ディストーション・ギターがさっと引く瞬間が何回かあり、これがアクセントになっているが、アレンジも正直言えばどうってことない。アルバムの曲配列にもある程度の気は使っているようだが、効果が出ているかどうかは疑問が残る。

アンサンブルは成熟の域に達しておらず、まだまだ「伸びしろ」があるような気がする。だが、表現において成熟することが即ち魅力的になることに直結するのだろうか?

俺は一概にそうは思わない。雄弁な表現力の露出は時として押し付けがましい。流行の音響処理は没個性的に、受けを狙ったオーバー・プロデュースは嘘くさく感じるのも事実。

ましてや、「現在の自分の立ち位置」を自覚している音楽家にとって、「売る為に自分を曲解させる作為を第三者から示唆されること」なぞ、嫌悪対象以外の何物でもないのだ。

Jesuが実践しているのは、自分たちでつくった「バンドらしい」音だ。現在の自分が実践すべき、と考えた音楽を「自分の意図」が歪められないように慎重に創られている。その結果出た音は決して聴き易い音楽ではない。コマーシャリズムには乗りようもない。が、そこには偽りが感じられない。生々しくも騒々しく、そしてなぜか静謐な印象。音響的特徴が災いして好き嫌いははっきり分かれるだろうが、実験要素が希薄であるにも関らず、素晴らしいオリジナリティ。

もしこの音が90年代にあったらスロー・コア、もしくはサッド・コアの重鎮としてもてはやされただろう。人によってはRed House Paintersや、その後のSun Kil Moon、もしかしたらSigur Rosあたりとの相似性を指摘する者もいるかもしれない。確かに部分的に似ていることは否定出来ない。もしかしたらJustinはこのことに自分自身も気がつき、苦悩しているかもしれないし、どーでもいいじゃん、と思っているかもしれない。

ただ一つ言えること。Jesuは劇的な進化も退化もしないだろう。Jesuが変わるとき、それはプロジェクトが終わる時であり、新たな別名のプロジェクトが立ち上がる時でもあるだろうことは容易に察しがつく。





Ascension

Ascension

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Caldo Verde
  • 発売日: 2011/05/10
  • メディア: CD




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