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Ambient 4 - On Land / Brian Eno [Ambient/New Age/Experimental]

昨日、予約していたBrian Enoの新作が届いた。アンビエント風味を残しつつ、典型的なロックのフォーマットから外れながらも良質のポップミュージックを提唱した前作、Another Day On Earth、そして同様のアプローチがなされたDavid Byrneとの久々の共作、Everything That Happen Will Todayからどのような進化を遂げたのか、もしくは遂げなかったのか、期待に胸膨らませていたのだが、ものの見事に裏切ってくれた。
まだ充分咀嚼できていないので詳しく内容についての言及は避けるが、前作のようなある意味、牧歌的な雰囲気を期待すると肩透かしを食らうので要注意。逆に、Ambient Tecno時代のEnoが好きな人にはお勧めかも。

いずれこの新作、Small Craft On A Milk Seaについては言及することにしておいて。


先日体調を崩し、日中横になった。が、別に眠いわけではなく、頭は起きているので、「なにか音楽でも聴くか。こういう時にはやっぱアンビエントだな」と、ポータブル・スピーカーにiPodを繋げ、Music For Airportをかけたつもりが眼鏡をしていなかったのが災いし、別の作品を選択してしまった。

「あまり好きじゃないんだけど・・・しばらく聴いていなかったから、まぁいいか」と、そのままかけていたのだが・・・

Ambient 4 - On Land / Brian Eno

onland.jpg

Enoが手がけた一連のAmbient作品の中でも、ある意味最も非音楽的な作品である。


Brian Enoがアンビエントを提唱した背景には、本人が交通事故にあってベッドから動けない状態にあり、ラジオのスイッチも音量も操作出来ずにそこにある音を受け入れるしかなかった時に、音による環境設計を思いついた、ということがある、というのは周知の事実であると思う。

これは個人的に、かつ感覚的に非常に共感できる部分がある。なぜなら、自分自身、過去に事故で腕を粉砕骨折し、丸一ヶ月、病院のベッドにベルトで固定されていた時期があったからだ。当時の俺は小学校6年生。主に母親が付き添いをしてくれたが、家事もあり、当然、俺にかかりっきりという訳にはいかない。祖母も面倒を見てくれたが、それにも限界があり、どうしても一人になる時間が出来てしまう。ソニー製のトランジスタ・ラジオを病室に持ち込み、主にFENを聴いていたが、(俺の洋楽偏重傾向はこの時に出来上がったのだと思う)運悪く一人の時にラジオが枕元に無いと、好みではない番組に切り替わったり、受信状態が悪くなったりしても再チューニング出来ず、好きではないタイプの曲を延々と我慢したり、ピーピーガーガーという音を聴き続けねばならない。スイッチを消すことも、音量を下げることも出来ない。この苛立ち。

多分、Brian Enoも似たような環境に置かれ、「聴き続けていても邪魔にならない音楽」、そして、「存在を主張せず、環境を心地よく変化させる音楽」の発想に至ったものだと思われる。

アンビエント・シリーズ第一作となるMusic For Airportは、飛行機嫌いのEnoが空港で聴いたら搭乗前の緊張が和らぐ音を想定して製作された、ということは有名だ。確かに、空間的に広い場所に多くの人が居るのに妙に騒がしくも無く、唐突に流れるアナウンス以外はざわざわとした音が支配する微妙な緊張感のある空間で、あの音が密やかに流れていたら(少なくとも俺は)緊張感が和らぐような気がする(俺もあまり飛行機での移動は好きではないので)。

続く二作目、Harold Buddとの共同名義によるThe Plateaux Of Mirrorは、環境音楽の傑作、と言ってよいだろう。Harold Buddの紡ぎ出すピアノの旋律は例えようも無く美しく、周辺を取り巻く環境ノイズを『忘れさせる』、もしくは『緩和させる』には最適である。

そして三作目、Laraaji名義のダルシマーによるDay Of Radianceは・・・う~ん、微妙だな。音響的には非常に面白いし、美しいことはわかる。が、これはある程度心地よい音環境に置かれているとき、もしくは自分を取り巻く音響がプアーな時に最大の効果が得られるのではないか?つまり、音楽主導型の環境設計を目指したのではないだろうか?事実、過去にこのブログでも取り上げているが、この作品を聴きたくなったのは降雪により周囲の生活環境音がほとんど聞えない時であり、絶大な効果があったことを覚えている。


さて、肝心のアンビエント・シリーズ最終作となるこの作品の内容はといえば、低音が中心のホワイト・ノイズ、不規則な発信音、自然環境音(と思われる音響)を電気的に処理した音などの上に、様々な楽器によるメロディー未満の断続的なソロ演奏が密やかに配置され、ところどころ効果音(らしき音)が聴こえる、といった、全く謎なものである。

集中して聴いても楽曲自体に価値が見出せないし(ま、アンビエントの趣旨からすれば不思議ではないのであるが)、音響的にも必然性(何の?)が感じられなく、「曖昧模糊とした音響で聴き手を煙に巻く駄作」という評価が俺の中で長年定着していた。


のであるが。


冒頭の通り、日中体調を崩して横になってこの作品を聴くとは無しに流していた時、自分を取り巻く生活騒音とスピーカーから流れてくるこの作品に収録されている音の境界線が曖昧になっていることに気が付いたのである。


いやぁ、驚いた。


自分が音響的に好ましからざる環境に置かれている場合、通常は他の音響、例えば好きな音楽をかけるとか、テレビをつけるとかによって意識をそちらに集中させるのが最も簡単な騒音回避策だと思う。ところが、On Landは生活騒音、それは例えば遠くの線路を電車が通過する音、上空をヘリコプターが通過する音、はては隣家のガス湯沸し機の作動音。その他諸々の生活騒音を取り込み、それらと調和するでもなく、打ち消すでもなく、別の印象の音環境が形成され、それが耳障りにならないように設計されていたのだ(勿論、耳を覆いたくなるような大音量の騒音下では機能しない、と思われるが)。


もしかしたら、Brian Eno自身はこの作品を語るに際し、全く異なった事を言っているかもしれない。もしかしたら、俺がここで言っているような事を言っているかもしれない。それは俺は知らんし、知る必要もない。

しかし、俺は普通のリスナーとして、言葉による補強がなされないと「面白い」と思えない作品は、少なくともその時点で自分が必要としていない無い物だ、と判断することにしており、聴き方なんぞ受け取り側の都合で決めるものであって、発信者が「こう聴け」と強制することなぞ出来ない、と思っている。が、俺はこの作品に接して30年近くが経過した今、初めて俺なりの聴き方(使い方)を見つけ、この作品に対する俺的評価は一気に上がった。これは事実。

当然、この作品を大音量で聴いたり、ヘッド・フォンを使用したりするなど愚の骨頂。各曲のディテールを把握する必要なんぞない。自分を取り巻く生活騒音のレベルに合わせて音量を調整し、かけてみて欲しい。



オン・ランド(紙ジャケット仕様)

オン・ランド(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト: ブライアン・イーノ
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2004/12/22
  • メディア: CD



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石原茂和

laguさん,実はこのAmbient#4は,人生で最も回数多く聴いているレコード(CD)です.現在も記録更新中.というのは,寝るときに枕に薄いスピーカーを入れて聴いている晩が多いので.聴いた回数は,1500回は下らないでしょう.

自分が音楽というものに対してもっている興味というものの
大半が,この1枚に集約されているといったら言い過ぎでしょうか.
この作品の捉えにくいストラクチャー,どうやってつくっているのか解らない製作プロセス,和声に聴こえない和声の構造.

Enoの言葉をつなぎ合わせて行くと,だいぶん解ってきました.
Generative Musicの作り方と,Spectral compositionとCageの影響.
by 石原茂和 (2010-10-28 19:18) 

lagu

石原さん、ご無沙汰してます。

そういえば、ARVO PARTの時に、「これから一生一作品を聴き続けなければならないとしたら何にするか」という問答に、この作品、と答えられてらっしゃいましたね。
「音楽というものに対してもっている興味というものの大半が,この1枚に集約されている」と、お思いになるのもわかるような気がします。確かに楽器演奏技術以外の切り口で音楽を考えるとき、「どうやったらこういう作品を創る必然性を自分に正当化出来るのか」かつ「心地よい旋律や耳ざわりのいい音を選んでいるようにも思えないのに何で聞き飽きないのか」というのは、私も気になるところです。

ただ、もう石原さんの中で答えはでちゃっているみたいですね。
音楽はそれが演奏される度に流動的であり、固定の記号的指示に則った演奏であったとしても人間が発音行為を行う限り全く同じ演奏はありえない、という考え方、そして先ず自分が受信側に与えたい心理影響を考え作曲・作品創りを行い、それらの構成要素を見直し、細分化し、本来の目的を達成するするために必ずしも必要ではない音を除外していく、という方法論。そしてもちろん現代音楽の巨匠の威を借りる、と(笑)。

そこに、若干の悪意(遊び心、とも言いますが)をスパイスとして振りかけているような気もしますが。
by lagu (2010-11-01 16:15) 

石原茂和

すばらしい透徹した視点,
まったく私が言いたかった事が全て
あらわされています.

最近のEnoの作品を聴くと
若かったときの悪意と言うか,才気というか,が,
寂しい寂しい,初老のあきらめ(奥の細道的な)
の表出に変わって来ていて,
それはちょっと聞くほうも寂しい.
60歳過ぎるとそうなるのか,
いやまだ早いだろう. と思う.
by 石原茂和 (2011-01-14 10:57) 

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