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The great gong kebyar of the 1960s. [ガムラン]

春も目前だし、久々にガムラン、である。

 
先日、「最近あまりガムラン聴いて無いな・・・そうだ、あれ、久しぶりに聴いてみるか」と、深く考えずにこの作品に手を伸ばしたのだが、改めてその素晴らしさを確認した。


Les Grands Gong Kebyar Des Annees Soixante
 
Les Grands Gong Kebyar Des Annees Soixante.jpg

この作品、ラジオ・フランスの名門レーベル、ocoraから発表されたGong Kebyarの名楽団、4組の演奏をオムニバス収録したCD2枚組。録音は1969年、1970年、1971年にかけて行われたらしい。もしかしたら以前はレコードで発売されていたのかもと思い、ちょっと調べたのだが1994年にCDでリリースされた以前の記録は見つけられなかった。

俺自身は発表間もない頃に予備知識もなく偶然新宿のVirgin Mega Storeで発見、大興奮しながら商品を手に取るも値段を見るなり予想をはるかに上回る高額(確か¥7,000超)に毒気を抜かれ、一旦は棚に戻して店を出た。が、「今日、ここで買わなければ次の出会いは無いかもしれない」と思いあぐねて新宿駅から引き返し、意を決して購入した思い入れの深い(笑)作品である。

収録されている4楽団は、硬質な印象のSawanの楽団、Anack Agung Gede Mandera率いるGunung Sari、重厚な印象のPindaの楽団、素晴らしくバランスのとれたTampaksiringの楽団。

せっかくだから簡単に個別の楽団の演奏について触れてみよう。

Sawanの楽団の演奏は3曲、全て舞踊の伴奏曲であるが、一曲目のTaruna Jaya、これが白眉だ。勿論この曲は、Gong Kebyarの巨匠、Gede Manikの手によるもので、創作されたのが半世紀以上、いや、一世紀近くも前である、という事実に改めて驚きを禁じ得ない。現在、バリ島各地で開催されている観光客向け公演で上演されることの多いこの演目は、通常12分程が一般的であるが、この時点での録音では16分超もある。この曲の冒頭部分はノンリズムの交響楽風の豪奢な演奏が長時間続き、プロローグ的な役割をも果たしているのだが、この部分が非常に長く、かつ現在では聞かれないアレンジである。勿論、舞踊家が登場してからの尺も長く、次から次へと様々な表情を見せては変容していく様は圧巻。ある意味、過度に情緒的にならずにぐいぐいと突き進んでいくその様はGong Kebyar発祥の地、Buleleng地方の楽団の面目躍如と言ったところか。
 
さて、Gunung SariについてはOleg Tamulilingan、Legong Keraton、Kapi Rajaが収録されている。実に的確な選曲。唯一、Legong Lasemが短縮版なのは残念だが、特筆すべきは現在においてもGunung Sariの最重要レパートリーとも言えるOleg Tamulilinganだ。この演奏におけるスリン奏者のフレージングの創造力、自由度は圧巻。ツボを外すことなく素晴らしい集中力で縦横無尽に吹きまくる。圧倒的に豊かな表現。この演奏はおそらく、いや、絶対にスリンの達人、Gusti Putu Okaさんだ。個人的にはこの一曲だけのためにこの作品を買って良かった、と思えたほど素晴らしい。

CD2の冒頭、Pindaのグループが演奏するのは、27分、16分の長尺のルランバタンの2曲。2曲目のSemarandanaという曲においては主旋律はUgalが担当しているが、Lelambatan形式の曲のはずだ。威厳を感じさせる堂々とした演奏は格調をを感じさせ、実に素晴らしい。いずれにせよ、Pindaの楽団の演奏がこの位置に配列されていることによって、この作品の「流れ」とでも言えるものが出来上がっている。

最後に控えしTampaksiringの楽団の一曲目は近代Gong Kebyarの傑作、Gede Manikの手による名曲Manuk Anguciだ。耳を奪われる印象的な曲展開、様々な演奏技法の提示。10分を超える曲中にこれでもかと投入されているGong Kebyarのエッセンス。この曲が現代のKreasi Baruのお手本の一つになったことは容易に察知できる。続く最終曲はWayan Lotringの手によるPelayon、これは曲としてはいわゆるKebyar Dudukなのだが、実に流麗な旋律、そして魅力的な演奏だ。


以上、合計10曲にして2時間超。実に充実した内容。1920年代終盤に生まれたGong Kebyarという近代ガムランの音楽文化が、上り調子でぐいぐいと突き進んでいた黄金期の局面を切り取った名盤、と言って差し支えないと思う。
音質面については50年も前の現地録音なので、超良好というわけにはいかないが十分許容範囲。ブックレットも実に充実していて資料的価値も高いし、ガムラン愛好者には是非購入をお勧めする、と、ここでAmazonを調べてみたらやはり新品の取り扱いはなし、中古盤は・・・おいおいおいおい、¥26,000もするのかよ!う〜ん・・・ま、とにかくショップで万が一売れ残っているこいつを見かけたら、迷うことなく連れ帰って欲しい。バリの現在の芸能文化に繋がる貴重な記録であると同時に、録音から半世紀が経過しようというのに十分楽める芸術作品だ。

あ、ちなみにジャケットの写真はLegong Lasemを踊る若き日のIbu SriとIbu Nyomanだと思われる。当然、この頃はTirta Sari結成前なのでGunung Sariでの撮影だろう。

 
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それにしてもだよ。Radio Franceが少なくとも3年にわたる取材でたったこれだけの録音しかしていないとは到底考えられないのだよなぁ。おそらく、各楽団で1作品作れるだけの録音はしているはずだ。勿論、商業作品として成立させるためにはこのくらいのボリュームでこの選曲が最適、と判断したからこそこういう売り方になったんだろうが、こういった歴史的に価値のある録音はなんらかの形で世の中に出して欲しい。おそらく、俺と同じように感じている人も多いと思う。

勿論、素晴らしい音楽作品は充実した解説付き、美しいデザインのジャケット付きで「モノ」として所有はしたいよ。でも「商品」として流通させるにはコストの面で見合わないのなら、「作品」という体裁ではなくとも良いから「記録」として最低限の文字情報と共にダウンロード販売でもしてもらえないだろうか?

でも、もしそれが実現した結果、とんでもない量の録音が巷に氾濫、文化的な希少価値が薄れ、製品化されたものの売り上げにすら影響することも考えられないでもないけど・・・



だめか・・・やっぱ、だめなんだろうな・・・

 
 
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