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Unbehagen / Nina Hagen Band [Rock]

昨日の記事を受け、ドイツの変態繋がり、という事で(笑)。

1979年発表、超絶技巧の変態歌姫、Nina Hagenが自身のバンドを率いての2作目。

Unbehagen / Nina Hagen Band

nina hagen unbehagen.jpg

とにかく、この人の奇行は有名。奇抜なメイク、ファッションは言うに及ばず、意味不明な発言をしたり、妙な宗教団体に入れあげたり、ボーイフレンドとのベッドでの写真をメディアに公開したり、と、話題に事欠かなかった。

特筆すべきは何と言ってもその歌唱による表現力の豊かさだろう。とにかく様々な声色を使い分け、多種多様な表現を聴かせる。それも一曲中でしょっちゅう声質を変える。もう、何がどうなってんだか聴き手が戸惑うほどである。艶やかで伸びのある美声、喉を全開にしてのシャウト唱法、ヨーデル風からドスのきいたダミ声まで、いったい何種類の発声法を使い分けているんだろう?とても一人で歌っているとは思えない。

彼女は普通に歌っても充分上手いと思うのだが、あえてこういうアプローチを選んだのは、勿論、奇をてらっての事であろう。そういった意味では確信犯的な『変態』で、かつ意図的に『色物』として扱われることを望んでいたのだろうが、彼女はクラシカルな声楽の教育を専門の学校で受けており、基本技術がしっかりしているもんだから聴いていて不愉快でない。「次はどうなるんだ?」と、わくわくどきどきなのである。もう、めくるめくNinaのミラクル・ボイス・ワールドが展開している。

当時、「こういう歌唱法では相当喉に負担がかかるだろうなぁ…」と、思っていたのだが、案の定で、後の来日公演を観に行った友人によると、途中で「声が出なくなった」とかで30分程度で公演は打ち切りになったそうだ。

それはさて置き、このアルバムで忘れてはならないのはバンドの質の高さである。時代はPunk/New Wave真っ盛りであり、バンドのスターであるNinaを活かすためか、様々な曲調やその時代に流行した表現方法を強要させられていると思われ、中には本来得意としていないスタイルの曲を演奏させられているのでは?と思う場面もあるが、色々と研究し、試行錯誤したのだろう。バンド独自のカラーを程よく残しながら上手くこなしており、各パートの力量は相当なものだ。テクニックを必要以上に誇示するようなことはしていないが(それでもギターは結構能弁であるが)、実は相当な実力者揃いなのではないだろうか?ミュージシャン・シップの高さが窺い知れる安定した演奏には非常に好感が持てる。

総じて万華鏡のようなボーカルは唯一にして無二の存在感。様々なバリエーションがありながら骨格のしっかりした曲の数々、曲によってはフリーキーな部分を残しながらも計算された堅牢な演奏。現在でも充分評価に値する真面目に創られた変態ロック。
当時はPunk/New Waveの有力株と目されていたが、過去に一定の評価を受けながら現在は忘れ去られようとしている作品に接するとき、記憶の中の「当時の価値観」で評価すべきではない。記憶は時間とともに曖昧になり、現在も受け継がれているものに価値観が偏りがちになる。しかし、過去の作品であることを考慮に入れて考えなくても素晴らしいものもあるのだ。何かをしながら聴けるような音ではないが、これは名盤保証。

実は、Nina Hagenが来日した折、知人が通訳としてインタビューに同行した。「見かけは怖そうだけど、人は見かけによらないものだ。素顔はきっと優しい人なんだろう…」と自らを鼓舞してインタビューに臨んだそうだが、インタビュアーが「貴方にとって音楽とは何ですか?」という愚問を飛ばしたそうだ。
「こういう人にそういう事を訊くのか?」と疑問に思いつつも職務をまっとうすべく通訳してNinaに伝えたところ、黙り込んで考える事数分間、身体が小刻みに震え始め、突然立ち上がるや「うぎゃ~!」と叫びだしたそうだ…

「やっぱりNina Hagenは怖かった…これからは人は見かけで判断する」とは知人の弁である。


Unbehagen

Unbehagen

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Anagram (UK)
  • 発売日: 2002/10/29
  • メディア: CD



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石原茂和

これ,懐かしいですね.
Lene Lovichというひともいました.
両方とも,七色の声でした.

by 石原茂和 (2010-03-27 11:27) 

lagu

石原さん、こんにちは。

リーナ・ラビッチかぁ…忘れてたなぁ。あ、あと、トーヤ・ウィルコックスって人もいましたね。後のロバート・フリップの奥様。この辺も聴きなおしてみるか。
ケイト・ブッシュはまた別格ですよね。あれはNew Waveと絡めて語られる人ではない。そうだ。The Dreamingも取り上げなきゃ。
by lagu (2010-03-27 12:01) 

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