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ガムラン変幻 / スマラ・ラティ (新世代ガムラン) [ガムラン]

俺がSemara Ratihを最初に観たのは1993年、初めてバリを訪れた時だった。元々ガムラン音楽には興味があり、日本でも何枚かCDを購入して聴いてはいたのだが、この楽団の演奏を目の当たりにしたときは度肝を抜かれた。そのアグレッシブかつプログレッシブな演奏は俺の持っていた「民族音楽としてのガムラン」のイメージを完全に覆すものだったのだ。めくるめくスピード感、判りやすいメロディー、豪快な音響。アドレナリンが一気に噴出し、俺は完全にハイな状態になった。(ま、多少は旅先で気分が高揚していたせいもあるかもしれないが・・・)

その後、様々な経緯があってSemara Ratihのメンバーの家に長期逗留してガムラン音楽を勉強し、様々な経緯があって演奏活動にも参加するようになり、これまた様々な経緯があって疎遠になってしまったが、一時期とは言えこの楽団の演奏活動に参加出来たことは俺にとって財産となっている、と思う。

ガムラン変幻 / スマラ・ラティ

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1992年、Semara Ratihの初来日時に録音された作品。

Semara Ratihはバリ島のウブドに本拠地を構える比較的新しいグループだ。ガムラン音楽の楽団は地域の共同体が運営し、楽団員もその地域の出身者で占められている、というのが民族学的に最も判りやすく、かつ魅力的な定説ではあるのだが、この楽団は州都デンパサールにある国立の芸術専門学校(STSI)の卒業生を中心に結成されており、地域には帰属していない、いわば「プロ集団」である。(少なくとも1990年代はそうだったが、多分、現在も同じだと思う)

Semara RatihはSemara Danaと呼ばれている比較的新しい編成を演奏に使用している。これは通常は5音階のGong Kebyarとは異なり、2オクターブある鍵盤楽器の上1オクターブが7音階に調律されており、また、1オクターブの鍵盤楽器も7音階に調律されている変則的な編成。なぜこのような変則チューニングを行っているかというと、古典的編成であるSemar Pegulingan Saih Pituのレパートリーを再現する為だ。非常に汎用性が高い反面、当然のごとく演奏は難しい。以前はかなり珍しい編成だったが、近年この編成を採択する楽団は非常に増え、希少価値は一時期に比べれば薄れた。とは言え、Semara Ratihがこの編成を世に知らしめた草分け的存在であり、Semara Danaの権威であることは疑いの無い事実だ。

この作品はガムラン音楽の作品としてはかなり異色と言える。通常、ガムラン音楽を収録する場合は、全楽器の合奏を収録するのが当然なのだが、なんと、先ず曲の骨格となる楽器のアンサンブルを収録し、その上に装飾音を奏する楽器類を重ねているのだ!これは実際にレコーディングに参加しているメンバーから直接聞いたので間違いない。更に、他の音が干渉しないように各楽器が区切られたブースで演奏したそうで、録音に参加したメンバーは初めての経験に面食らったそうだ。録音には当時最新鋭の機材が使用されており、製作者側は機材の性能を試すという意味もあって、この手法を採択したのだと思われる。事実、全世界的に見てもこれだけクリアーで分離の良いガムランの録音は非常に稀で、録音は大成功といえる。

肝心の演奏内容だが、素晴らしいの一言に尽きる。バリエーション豊かな各曲はそれぞれがSemara Danaの特色が活かされた様々な表情を見せ、豊かな表現力と超人的な技巧で一分の隙も無く一気に聴かせる。
全ての曲のクオリティが高く、名演揃いと言えるが、中でも白眉は、当時Semara Ratihの演奏会のオープニングを飾ることの多かったJagra Parwata、及びGoro Merdawaだろう。緻密に計算されたアンサンブル、起承転結の見事な変化に富んだ楽曲、スピードを感じるメロディー、絶品だ。これらの曲は音楽監督だったNyoman Windah氏の手によるもので、氏の手法は現代ガムランのお手本となり、彼に影響を受けた若手音楽家は多い。正に巨匠というにふさわしい存在だ。勿論、これらの難曲を弾きこなすSemara Ratihの演奏力も相当なものだ。

昨今、民族音楽に「癒し」を求める風潮があるが、この作品にそういったものを求めるのはお門違いだ。適当に流しながら聴くものではなく、願わくばステレオの前で最適なリスニングポジションを見つけ、ボリュームを(許される範囲で)最大限に上げてじっくりと鑑賞するべきだと思う。

実は、この作品の前に、「ゴング・スマラダナ / バリ島スマラ・ラティ歌舞団」という作品が発売されており、俺はもっぱらこちらを聴いていた。但し、「ガムラン変幻」との違いは最終曲のみだ。「ゴング・スマラダナ ~」に収録されていたSinom Ladrangが「ガムラン変幻」ではLengkerになっているが、どちらもSemar Pegulingan Saih Pituの古典曲であり、他の4曲はテイクも全く同じなので、正直言って作品全体の印象は変わらない。とは言え、悩んだあげく、俺はLengkerただ一曲のために「ガムラン変幻」も購入してしまったのだった・・・


ガムラン変幻

ガムラン変幻

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
  • 発売日: 2000/08/02
  • メディア: CD


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コメント 3

はるらら

ごめんなさい。家具としての音楽のページに
コメント入れてしまった。
by はるらら (2006-01-24 21:04) 

lagu

よろしいのではないでしょうか? ^^; 
by lagu (2006-01-24 23:14) 

ぱうだー

こんばんは、「ガムラン変幻」アップしてもらって感謝です。
私のブログでテーマが芸能だと、コメント少ないと思ってましたが思ったよりコメント多くてびっくりしています。
ヤマサリもう少し後にすればよかったかなぁ。
定期的にいろんな芸能とりあげていきますので今後ともよろしくお願いします。
by ぱうだー (2006-01-24 23:24) 

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